#055　壁

■実写にアニメーションと彼らの音楽が乗った、ピンクフロイドの『The Wall』という映画を見て衝撃を受けたのはいつのことだっただろう。プログレッシブで暗く重い展開の果てに、壁に穴が穿たれるという予兆のようなエンディングだった。人間個人が自らの周囲に壁を築いて、囚人となって生きているという現状とその打開。心の中で宇宙の果てまで行った友人は、３重の折の中に入り、そして生還した。

■1989年は個人でも社会でもより大きな流れが、別のもっと大きい象徴でもあったベルリンの壁に穴を開けた年だった。それ以前に萩尾望都の『ポーの一族』の中で、反骨的な少年が伸ばしている髪を切れと先生に言われて「ベルリンの壁がなくなったら」と答えていたけれど、それは『マクベス』の中でバーナムの森が動いたらというありえない仮定がいつでも起こる現実とてし実現した。反転の時だった。

■紀元前3100年頃、英国のソールズベリーにあるストーンヘンジが新たに増築された。同じく紀元前3100年頃、上下エジプトは統一された。BC3113年、現行のマヤ暦は計時が開始された。今から5100余年前に何があったのか。それはAD2013年を丸ごと過去にひっくり返したところにある壁だ。有史時代と先史時代の間に横たわる壁。その向こうにはいかなるものがあったのか、そして今でもあるのであろうか。

　　　

■壁の向こうは大過去であり、大未来でもある。

2008.06.09 Monday