#279　室内裸族という個体たちについて

■裸族と言っても未開の部族や熱帯地方の先住民の今年ではない。単にプライベート空間では裸で生活をする若い女の子たちのことだ。もちろん老若男女を問わずそのような人たちはいるけれど、個人的に男性や幼児やご老体に関しては興味がないので言及するつもりはない。ついでに言えば容姿の美醜にまで制限を加えたいが、その価値判断には個人差があろうし、私自身のそれを細かに説明するつもりもないので、まあ一般的に若い女の子といおう。

■年上の姉や親族がいる人や、女性の生体について詳しい人はとうに知っていることかも知れないが、自分１人の部屋や家の中ではほぼ裸で生活しているという普通の女の子は少なくない。これは決してだらしないわけでもなければ、少し変わった趣味を持っているというわけでもない。社会的な外から家に帰ると、先ずブラを外して楽になるというのは、男ならまずネクタイを外すということからも想像はできるだろう。一人でいる時には着飾る必要はない。

■蒸し暑い日本の夏などは経済効率的にも意味がある。裸で安静にしている時に生理上最も快適と感じる気温は29.5°Ｃであり、これを体感中立温と言う｡この温度がエネルギー効率が最も良い生理経済的気温である。この温度以上であれば冷房や水浴などをしなければ、そして太陽光線に直接晒されたり虫に刺されたりしなければ、風通しの良い室内で裸でいるのがもっとも楽なのは自明だろう。東北の人は今でも熱い寒いに関わらず休む時は裸で眠るのだろうか。

　　　

■もちろんこれば貧しい人や自然志向の人だけのことではない。あの叶姉妹も家の中では裸で暮らしていると言うし、昔ではマリリン・モンローが夜何を身につけて寝るのとかいう問いにシャネルの５番と答えたことも色あせてはいない。冬は着こんで暖を取ることもあろうが、きっちり暖房をして裸で過ごすことも気持ちがよいはずだ。北海道の冬は家の中では暖房しているのでＴシャツ１枚でいるという話は、裸まであとわずか１枚ということでもある。

■もちろん部屋が乱雑だったり汚れていたりしたら、裸でいることはできない。温かかろうが寒かろうが、不潔であれば素肌ではいられないし、ちょっと横になろうとしても何ががくっ付いたり突き刺さったりするか分からなければ、快適であるなし以前に危険でとても裸族ではいられない。それでも裸同然でゴミのなかで生活しているとしたら、それは裸族ではなくただのずぼらな人というべきだ。裸族はきれい好きでしかも整理整頓できる人なのである。

■私は６歳年下の妹しかいなかったので、女の子の日々の生態に関しては少し歳を取るまで詳細は知らずにいた。後日数学者と同姓同名の矢野健太郎という漫画家の『ネコじゃないモン』という作品の手伝いをすることになったのだが、その話が大阪から東京に出てきた女の子が１人で生活をするという設定なので、女友達も含めたかなりリアルな取材や資料集めをしていた。Ｈ好きな作者の趣味も相まって、その実態を知り、随分と人生上の勉強になったものだった。

　　　

■裸で過ごすというと、健康な男性はすぐに鼻の下同様に妄想の羽根をプライベート空間にまで伸ばし過ぎそうだが、裸族の日常はかなり静かである。あるＯＬもマンションのベランダの壁の高さとブラインドの下げ丈の調節で、外的視線の遮断と季節の採光を調節して快適な裸族生活をしている。もちろん私のような者の来客時にはハワイのムームー様のものを着服してはいるけれど、来客自体がそう頻繁ではなく、自宅では穏やかな生活をしているようだ。

■裸族は合理的で、またある意味美的意識も高い。食べ過ぎや知的怠惰から来る身体的たるみ…つまり太りすぎや姿勢の悪さは服を着込んでいる時よりもよく目につくので、身のこなしや呼吸から食物にも常人より気をつける。肌に直接触れるものにはケミカルなものや毒性のあるものは使わない。裸族の生活を考える事は、外的なヌーディストクラブのような話ではなく、むしろ内的な環境問題であるということもできるのではないだろうか。

■裸族は自然体でいながら、心身の一部ではどこか凛としてもいる。個人的趣味から女の子で話を進めたが、もちろん男とて裸族でいてもさしたる問題はない。南方熊楠も年中裸で生活していたという。ただ股間の一物が慣性の法則に従って意に反して自由運動をするので、褌の１つも締めていた方が過ごしやすいとは思われるが。男女のカップルが裸でプライベートな生活空間で過ごすということもアリだろうが、これはまた別の話として置いておこう。

　　　

■余計なものを包み隠さない人は、逆に包み隠すべきことをよく知っている気がする。断っておくがこれは裸族への勧めでも賛美でもない。裸族という言葉も私の造語ではない。かつて詩人Ｋ氏のところに来ていた若き母娘に対して、Ｋ氏がこいつらは裸族だからちょっと黙っているとすぐに裸で生活していると評していたことを思い出す。裸族化はいいことだろうが、安易にまねをして怪我をしたり、妄想に浸ったり、他者に笑われたりしないことを願いたい。

2007.04.19 Thursday