#139　新たなる卒啄…宇宙卵の孵る時

「卒啄」という言葉がある。「卒」とは孵化しようとする雛鳥が卵の内側から殻を突つく事、「啄」とは時を同じくして母鳥が外側から殻を突つく事だ。その結果雛鳥は無事この世に生まれる事ができる。これはそもそも禅の言葉で、機を得て両者相応するという意味である。母鳥の啄が早すぎたら雛鳥は未熟なまま外気に晒されて死んでしまうし、遅すぎても卵の中で腐ってしまう。生命のシンクロニシティ。

■この内と外の共時性には、次元を超えた同期という重要な概念が含まれている。孵化直前の卵の内部は、実は雛にとって地獄のような状態でもある。毒素に転じかけている自らの糞や尿やガスで、もはやこれ以上そこにいる事ができない状況だ。出産直前の人間の胎児に同様である。永遠のゆりかごのようだった子宮も、新陳代謝の激しい末期には浄化作用が追いつかず、そこは地獄のような状態になっていく。

■しかし出産においても内と外との共時性が存在する。母と胎児の卒啄。世界は収縮し崩壊を始めるする。子宮口が開き、産道を通る遥かな旅が始まる。未来はその外にのみ存在する。やがて長い旅の果てに、肺の中の羊水を吐き出し、大気を吸って産声を上げる。赤ん坊は人間社会の中で成長していき、やがて自我に芽生える。さらに成長すると今度はそのエゴの殻が限界となり、プライド対愛情の内戦が始まる。

■しかし苦痛と煩悶ばかりの地獄のような世界で、それでもエゴの殻を超越しようと真摯にもがき苦しみつつも「卒」音を発していれば、外側から絶妙のタイミングで新しい「啄」音が聞こえてくる。もしくは徹底的にその幻の界面を外側から叩き潰してくれる。師匠、守護霊、天使、超自我、未来の自分、ご先祖様…。はちきれそうな自我の中にはもう未来はない。固執してすがり付けば世界共々腐り果てる。

　　　

■人間の総体としての現在の地球もまた、同型に対応して見る事ができるだろう。人口過剰・食糧問題・環境破壊・異常気象・経済混乱…等など、逃げ場のない絶望的状況は数え上げればきりがない。終末論やマヤ暦の終焉に向けて誰もが予感しつつも、個人の力では成す術がない無力感を抱いている。しかしこれもまた地球がひとつの超有機体に生まれ変わる直前の、危機的状況であると見る事もできる。

■遠からぬ未来、一人ひとりが地球の脳細胞のように連動しつつ、宇宙の水の中に反転ダイブする、その兆しであると考える事もできる。もちろんそこには失敗して腐るかも知れない危険性や、機を違えて自我流産する可能性も当然ある。しかし人事を尽くして天命を待つというように、肯定的姿勢で現状を超えていこうと最善の努力をするならば、卵の内側であるこの全世界の外からの共時的サポートが必ずあるに違いない。

■毎日が世紀末の者もいれば、毎日が新次元の者もいる。このホロニックな宇宙そのものが、全く新しい次元に反転しようとしているのだとしたら。そしてそれは個々人にとって、実はこの瞬間瞬間そのものなのだと理解できるなら、私たちがまず成すべき事はこの地球で人間をしっかり生き切るという事だ。過去世が何であろうと、それに引っ張られる必要はない。

■霊的支援・宇宙人の助力・未来からの介入…それを何と解釈し表現してもよい。しかし救済願望よろしくただ漫然とそれを待つのでは、未来を悲観して自暴自棄的になるのと愚かでは変わりがない。どんな超越存在と深い関係があろうが、現実生活でちゃんと人間できない者の言葉に惑わされる必要はない。真実は自分の内側からやってくる。時を違えぬためにも、時間の本質とは生命の本質である事を体感しよう。

■今この瞬間も、実は新しい世界へと続く宇宙の産道を通っているのかも知れない。自分という宇宙卵と、自分の全体性との新しい「卒啄」。

2013のジグソーパズル(２)rewritten & replaced

2006.07.04 Tuesday