#055　祖父の差別を昇天させたチャングム

■サッカーのスペインリーグでトップを快走するバルセロナ。そのフォワードのエトゥーが試合中相手のサポーターに酷い人種差別的扱いを受けて、ショックのあまりプレーを止めてそのままピッチの外に出ようとした。同じ黒人のロナウジーニョや黒人の血が入っているライカールト監督の魂の説得でかろうじて踏みとどまったが、以来人種差別にはFIFAは断固とした措置を取ることにした。

■人種差別と言えば、私は今は亡き帝国海軍の軍人だった祖父の普段の言動を思い出す。朝鮮半島の人は知らなかったが、黒人は横須賀のベースキャンプにたくさんいた。米兵相手の店が立ち並ぶドブ板横丁は子供心にも怖かった。私が知らないだけで朝鮮高校も近所にあったらしい。戦争に負けて誇りも崩れ去り、その翻りである差別意識に自分が気づけない時代と人との日常意識だった。

■ワールドカップ同時開催で非常に近しくなったと思いきや、反日感情に萌え上がりもする、すぐ隣にあるのに朝鮮半島の歴史を私はほとんど知らなかった。韓流などと言って韓国のスターが騒がれたりドラマがもてはやされたりしても、私は個人的には興味がなかった。ところが嫁さんが夢中になっているドラマを何気なく見ているうちにちょっとハマった。大長今と書いてチャングムと読む。（※）

■このドラマ、実在した歴史上の人物をモデルにした話で、宮廷料理人で後に医女（女のお医者さん）になる天才的な女性の波乱万丈な話なのだけれど、ほとんど何も知らなかった朝鮮半島の歴史や風俗、そして料理などまでとても勉強になる。何よりの驚きはほぼ１時間番組を１週間に２本製作しているということだ。日本の業界も真っ青な超売れっ子マンガ家みたいな強行スケジュールだ。

■倭寇や明の影響力などの当時の歴史的な背景も学ばされるが、男性が髪の毛を見せぬよういつも帽子を被っていたり、女性の様々な面白い髪形なども興味深い。スタイリストとスタッフの創作も入っているとのことだが、衣服の色合いなども折々の季節のなかで美しい画面を作っている。まあ基本的には宮中だけという狭い社会でのドラマなのだが、それにしてもチャングムは毎回本当によく泣く。

■このドラマの中での敵役であるチェ一族も、陰謀を巡らせてもどこか人間臭くて憎みきれない部分もあったりする。すでに日本では古きに失する正統派的なドラマ展開だが、一生懸命製作している姿も想像でき、これによって韓国がとても好きになった。私の中には差別意識はないけれど、それでも祖父に染み付いていた人種差別的世界観も私の中で昇天してくれたことだろう。ＴＶもいいなあ。

on 2006.04.11 Tuesday

（※）韓国の言葉では語頭にくる音は濁音にしないので名前のみ呼ぶときは「チャングム」だが、この「偉大なるチャングム」という意味のタイトル『大長今』の正しい読みは「テ・ジャングム」となる。