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■掛け流し温泉のある安宿で検索して、直前の予約で取れたのが「民宿富久の
湯」だった。奥飛騨温泉郷の中で栃尾温泉に宿泊するのは初めてだった。栃尾
温泉は飛騨地方の北東部､471号沿いの蒲田川と平湯川の合流地点付近に位置し
ており、新穂高温泉郷の出入口でもあり、北アルプス西側の登山口にあたる。

■新穂高ロープウェイ方面へ続く道から１本入った道筋にある｢民宿富久の湯
」は、リーズナブルで接客の距離感も良いとネットでも評判の宿だった。素泊
まり3,400円(税抜)でお願いしたのだが､2000円ほどプラスして夕食を付けても
らうと、飛騨牛など値段以上の食事が味わえるのだということは後で知った。

■この温泉民宿は１人泊も全然ＯＫで、出張ノビジネスマンや登山者やスキー
客からバイクのツーリストたちも利用する宿のようだ。個人的には全然問題な
いのだが、玄関で先ず気が付いたことは館内にスリッパがないということだ。
そのためではないけれど、廊下や部屋の中を歩く他の客達の足音が結構響く。

■そして部屋と部屋の間の壁が薄いので、隣りの部屋の声やくしゃみの音も駄
々漏れだった。逆にこちらも大きな音を出さないように気を遣う。寝ようとし
て消灯すると、柱と壁の間に白い筋が見えた。良く見ると隣の部屋の光が漏れ
ていたのだった。民宿泊なので仕方ないけれどさすがにこれには少し驚いた。

■温泉は地区で集中管理している単純泉を、湯船42度程度に調整するために僅
かに加水して掛け流されている。浴槽は内風呂だけだが、常に浴槽の縁からオ
ーバーフローしていて、宿の大きさを考えると十分に大きい。大きな窓が開け
放たれていてかなり開放的だ。24時間入浴可能なのでほぼ独占状態で入れる。

■露天に入りたかったら、すぐ近くに公共の温泉施設「荒神の湯」がある。宿
泊客は無料で入ってもいいようだ。幾つかの温泉民宿がある栃尾温泉の源泉は
どこにあるのか謎だったが、1959（昭和34）年に蒲田川を７キロメートルさか
のぼった新穂高から、単純温泉をパイプで引き湯してきてできた温泉だった。

■｢民宿富久の湯」の施設はそこそこ古いけれど、清潔に保たれていた。栃尾
地区界隈だけでなく、奥飛騨温泉郷全体がかなり深刻な人手不足で、外国人労
働力に頼らなければならない状況だとか。他の地方の温泉宿でも経営が大変な
ところは少なくない。温泉宿と温泉文化の健やかな存続を願うばかりである｡

　　　　　★所在地：〒506-1423 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷栃尾 266-5
　　　　　　　　　　Tel.0578-89-2829　https://tokunoyu.com/

人生丸ごと湯治日記（６３１）　20191017