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いきなり玄関だと温度差が大なので、このように２重の入り口に。それだけ寒い季節なのだ。

■「水明館佳留萱山荘」に立ち寄り入浴しようと路線バスに乗り、バス待ち小屋がある佳留萱（かるかや）バス停に降り立った。眼下の川岸に立つ目当ての旅館に歩いて行くと、玄関前に大きな鯉が泳いでいる池があった。そういえば平湯の宿にも足湯の隣の池に鯉がいた。温泉の熱のせいだろう、冬なのに冬眠もせず元気に泳いでいる。

■玄関の軒下に「日本秘湯を守る会」の提灯が下がっている。そういえば「槍見館」の玄関にもぶら下がっていた「日本秘湯を守る会」は昭和50年に30数軒の宿が集まって設立したもので、現在は156軒を数えている。そのほとんどが湧出量豊富の掛け流し温泉を有する奥深い山中の宿だ。今回は図らずも２つ続けての入湯とあいなった。

　　
　　　　　　　　　　　霧の中、湯けむりの中、白い世界に緑色の湯が映える。

■フロントで料金を払うと「現在清掃中のところには入られませんけれど」と言われた。「ああ、槍見館のように順番に掃除していくのだな」と納得する。貸切露天風呂（30分）はさらに1500円必要なので今回は外し、緑色の大暖簾が掛かる門を潜って川縁に下りると、右は貸切露天、左は女性専用と混浴の大露天へと道が分かれている。

■迷うこなく、東海随一とその広さを謳う大露天風呂に向かう。入り口は男女で分かれているが露天風呂の中で落ち合うという形式の脱衣所は、防寒のためにビニールシートで囲われていた。服を脱ぐ間ももどかしく湯気が立ち上る熱めの湯の中に身を沈める。確かにでかい。そして深い。見渡しても客がいない。またも占有状態である。

　　
　　寄りかかっていた巨石はより大きな湯船側との中仕切りに過ぎなかったと知るのはこの後である。

■脱衣所に掲げられた温泉成分表によれば、源泉名は「水明館佳留萱山荘No.12」で、57.3℃の湯が毎分500リットル湧出している。泉質は単純温泉（低張性中性高温泉）だが、お湯は無色透明というよりは心持ち炭酸水素系の緑色がかっている。雪が数十センチ積もっている屋根の軒先にも「日本秘湯を守る会」の提灯が掛かっていた。

■寄りかかっていた大岩の向こうで何やらホースで水を蒔くような音がするので覗いて見ると、従業員さんが露天風呂の湯を抜いた床を掃除していた。順番に掃除するのであれば、次は今入っている温泉かと思い「次にこちらも掃除しますか？」と尋ねると「いいえそちらはやりません」との答え。巨大な露天の清掃は大変な作業なのだ。

　　
　　　　　　　　　　　絵づらだけだと、もはや人外魔境か夢の中。

■充分体が温まったので、清掃していたのはどんな露天風呂なのかと思い、寄りかかっていた巨石をぐるりと回って裏側に行ってみた。ただっ広いスペースの真ん中に子供の背丈ほどの太い石柱が立っている。「佳留萱山荘」の露天風呂紹介の写真で見覚えがある湯出口だった。再投入のお湯がようやく湯船の床に薄く溜まり始めている。

■その時ようやく私は気がついた。川の対岸への目隠しかと思って寄りかかっていた巨岩は、なんのことはない巨大な湯船の真ん中の仕切りの１つに過ぎなかったのだ。そしてこの空っぽの部分にもお湯が一杯になった時の、全体の大きさと深さをその内側から想像してみて初めて、その東海一の広さという意味が実感できたのである。

　　
　湯抜き清掃直後の巨大な湯船。真ん中の柱が湯出口で、普段は上のくびれまで湯が張られている。

■この広さで掛け流しだ。その湯を惜しげもなく一度捨て去って掃除しているのである。しかも人工的な街中のスパランドなどとは違い、周囲は北アルプスも眺望できる大自然だ。「ここを知らないで温泉を語る勿れ」という言もあるが、確かにこの尋常ではないスケールには、脱帽して（すでに裸ではあるが）謙虚にならざるをえない。

■広々とした湯船と大自然。めったに見られない巨大露天の湯抜き清掃直後の湯船を見ることができたのもラッキーだった。さすが露天風呂の数が全国一の奥飛騨温泉郷、どこまでも奥深い。湯船がとにかく広いので、同じ湯船でも湧出口との距離で高温から低温まで、自分の好みの湯音で味わえる。心ゆくまで温まってから退出しよう。

　　
　脱衣所の屋根の上には積雪が。湯の色はご覧の通り緑がかっている。湯気の合間にすばやく撮影。

■そう思って緩んでいたら、ぽつりぽつりと湯面に波紋ができ始めてき雪が雨に変わってきたのだ。湯船は肩くらいの深さがあるので寒風の中でも寒くはないのだが、頭が無防備に濡れていく。冬の露天風呂に雪は似合うが、氷雨はあまり宜しくない。本降りになる前にしずしずと退散することにした。必ず再訪すると心に誓いながら…。

■ここ「佳留萱山荘」には源泉が３箇所あり、大露天風呂の湯は単純泉だが内湯と貸切風呂の方は炭酸水素泉を使っているとのこと。立ち寄り客の利用時間は朝８時から夜８時までだが、宿泊客は24時間利用できる。この宿もまたいずれ泊まって、もう１つの泉質を味わったり、夜遅くに広大な湯船の中から星空を眺めて見たいものだ。

★所在地：岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂555 TEL.0578-89-2801 http://www.karukaya.co.jp/

人生丸ごと湯治日記（５６５）　20040202 re.