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■この界隈には様々なタイプの旅館や、湯治宿がいくつもある。九州電力妙見発電所
出力3800KWと壁に書かれたがっしりして古めかしい建物がある。これは大正10年に造
られたものらしい。その向かいにあるのが湯治温泉旅館の「きらく温泉」だ。道を通
る度に気になっていた。ここの看板には「素泊まり3800円より」と書かれてある。

　　

■立ち寄りで露天風呂に入れるかと受付で尋ねると500円だった。料金を払い、入り
口から言われた通り矢印に沿って２階に上がると、露天風呂に通じる階段がある。そ
こを登りきったところで男は右、女は左にと竹編屏風１枚で分けられている。浅くて
広めの湯船の周りはぐるりと溶解していた温泉成分が結晶化してこびりついている。

　　

■湧出口には湯飲用のカップが置いてあり、掛け流しの湯は確かに排湯溝から流され
ている。新川渓谷温泉郷のナトリウム・カルシウム炭酸水素塩温泉だ。浴槽の縁には
カルシウムを主体とする温泉成分が分厚くこびりついている。ちょっとした演出なの
だろうか、岩の上からと同様に、湯船の端の方からもボコボコと湯が湧き出ている。

　　

■頭上には広々と空が広がっており、向かいの山の上には白い半月が見えている。目
を水平に戻せば、湯治客用の建物に部屋がいくつも並んでいる。他の客でもいたら話
でも聞けただろうに、ここでもまた私は１人きりである。ここは鹿児島空港から近い
ので、名古屋からでも北関東の温泉群よりアクセス的に近い。そのうち再訪しよう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　★所在地：霧島市隼人町嘉例川4385 TEL.0995-77-2337

■石原荘に戻る途中、史跡洞窟「熊襲（くまそ）の穴」という大きな看板があったの
で立ち寄ってみる。太古の昔この辺りには日本書紀で言う熊襲族が住んでいたが、こ
の地にも勢力を伸ばしてきた大和朝廷側の日本武尊が女装して首領の川上たけるを謀
殺したという説話が残っており、この洞窟がその現場だという説もあるとのことだ。

　　　　　　　

■山間なので早くも日が翳っている急な階段を途中まで登ってきてから、真偽のほど
は定かではないにせよ殺人現場の洞穴へ向かうわけだから、よくよく考えれば不気味
な現場ではないかと後悔し始めたが後の祭りである。腿の筋肉を乳酸でぱんぱんにし
ながら急な階段を登り終えると、切り立った崖の根元に縄を張られた鳥居があった。

　　

■その鳥居を潜るとすぐ、腰を曲げなければ入れない穴の口がある。中を覗こうとし
ても真っ暗でとにかく不気味だ。怖がりの私は１人でこの真っ暗闇の中に入る勇気は
ないので、さっさと宿に戻ろうと思った。しかしすぐ横に内部照明用ライトのスイッ
チが目に入ったので、１人でびくびくしながらも意を決して内部に入ることにした。

　　

■思ったより広い内部の壁には原色の渦巻きが描かれている。これは鹿児島出身の前
衛画家が描いたらしいのだが、個人的にはちょっと興ざめである。取り敢えずデジカ
メで内部を撮ると長居は無用と退出する。もう少し詳しく歴史的背景の説明があれば
良かったのではあるが。神話世界は恣意的だが、さらにそれ以前の時に興味がある。

■石原荘に戻って一休み。そして今日は部屋出しでの夕食。今晩の献立にはこちらの
希望が幾つか入っているのがありがたい。この３連泊の間の朝１時間以上、夕も１時
間半以上かけての美味しい食事で、体重がかなり増えたような気がする。はたしてそ
れに見合うだけの精神は増えたのだろうか。取り敢えずは温泉に入って考えよう。

人生丸ごと湯治日記（５５２）　20030212 re.