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■最初は小雨がぱらついてはいたが、午前の早い時間に温泉の町を歩くのは気持ちが
良い。山の斜面や畑の端にも多数湯井があり、湯けむりを上げている。硫黄泉独特の
ゆで卵臭が流れてきて、温泉情緒をかきたてる。826年に起きた鳥屋ヶ森山の噴火で
、現在の温泉神社より温泉が湧出し始めたのが鳴子温泉の始まりだ。千年温泉だ。

■ガードをくぐって坂を上がり、まずは昔早稲田大学の学生７人が掘削したという共
同湯「早稲田桟敷湯」に入る。入場料金530円。ＪＲ鳴子温泉駅からは徒歩３分ほど
だろうか。現在は早稲田の研究室が設計した薄黄色をした前衛的な建物になっている
が、建物の左側に流れ出ている源泉そのままに熱く豊かな湯量は変わっていない。

　　

■建物の正面中央にあるゆっくりしたスロープを登ってから階段を下に降りて入口に
至る。左手にある中桟敷では、湯上りの後に休んだり、寛ぎのスペースとなっている
。脱衣所まで続く床はコンクリートのままのたたきだが、床下に温泉パイプでも通し
てあるのか、それとも温湯からその熱が伝ってくるのか、足の裏に温かさを感じる。

■券売機で入場券を買って入る。浴室は２階まで吹き抜けになっていて広い。壁は黄
色とサーモンピンクで、床には数種の天然石が埋め込まれている。中に入るとまずそ
の湯の花の量に驚かされた。浴槽は２つで、そこに木製の樋３本から湯が流れ出てい
るのだが、その板の上にも白くこびりつき、生き物のように湯の流れで揺れている。

　　

■源泉名は町有下地獄源泉で、泉質はナトリウム-硫酸塩・塩化物泉で、源泉での泉
温は98.0℃だ。微白濁、微硫黄臭あり。浴槽には溶き卵のような大小の湯の華が沈殿
していた。斬新だが落ち着いた雰囲気で、湯が静かに浴槽を満たしている。まだ午前
中だからだろうか、１人いた先客も上がり、私たちの独占状態となってしまった。

■しからばと贅沢に流れ溢れるわずかに黄褐色の湯をかき分けて湯口まで進み、その
樋の内側にこびりついた白い湯の花の上に指でいたずら描きをしてみた。甲田氏も謎
の妖怪を隣に書いた。これくらいなら別に器物破損にはならないだろう。少しだけ熱
めの湯は体に染み入る良い泉質である。湯船の横の板場に横たわるのも気持ちいい。

　　

■片方にタイヤが付いている謎のベンチが休憩場に幾つかあったので、受付の人にこ
れは健康器具か何かですかと尋ねてみた。するとみなさんいろいろ試していらっしゃ
るようですが、これはこのようなものなのですとのこと。つまりこれもまた前衛的デ
ザインの一環だったのだ。共同浴場としては規模が大きく、外観・内装共に斬新だ。

■少し熱めの湯のせいか、随分とぬくたまってしまったので湯を上がり、再入浴券と
いうものを発行してもらって外に出た。この券を見せれば今日中ならば再度入湯がで
きるというありがたいシステムだ。２人で鳴子温泉駅に出て、甲田氏は電車時刻の確
認をし、私は温泉に関する本を手に入れたいので観光案内所で本屋の所在を尋ねた。

■するとこの街の本屋は最近店を畳んでしまったのだとのこと。それでは電車で幾つ
か行けば本屋さんはありますか？と尋ねたら、５つほど先の駅から少し歩いたところ
の商店街には本屋がありますよと丁寧に教えてくれた。昨今の書籍不況の波に飲まれ
てしまったのだろうか。わざわざ温泉地まで来て活字中毒も考えものではあるが。

★所在地：宮城県大崎市鳴子温泉新屋敷124?１ TEL.0229-83-4751

人生丸ごと湯治日記（５１４）　20041013 re.