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■遠藤さん宅に一泊のお世話になった翌日、長岡造形大学で菅原先生と待ち合わせ、
急遽３人で冬の新潟の温泉巡りをすることになった。新潟の温泉はほぼ網羅した温泉
博士でもある菅原先生は、今回のために特別の温泉とルートをデザインしてくれた。
先ずは関越自動車道に乗って北魚沼郡にある湯之谷温泉郷の栃尾又・霊泉の湯だ。

■車窓の外に積もる雪は山奥に行くに従って50cm、80cm、１ｍと段々高くなっていく
ばかりだ。小出ＩＣで一般道に下りて、ルート352を奥只見湖方面に走り続けると、
道路の左右の雪はいよいよ高くなってくる。湯之谷村の大湯温泉のさらに先の雪深い
山間のどん詰まりに、深い雪の中に眠るように埋もれるように栃尾又温泉はあった。

　　

■栃尾又温泉は自在館・神風館・宝巌堂というこの３つ宿泊施設からなるが、どれも
同じ一族が経営しているらしい。そのさらに奥まったところに立ち寄り温泉の「栃尾
又霊泉の湯」があった。大正時代に建てられたという自在館の旧館は、昔の湯治場が
そのまま古くなった素朴な面持ちだ。それが半ば眠るように深い雪に埋もれている。

■その独特の雰囲気と風情のある軒下をくぐるようにして辿り着いた霊泉の湯は、実
は2000年に新館オープンしたばかりなので、対照的に新しく現代的な湯治施設だ。１
日入浴券は平常時は1000円なのだが、今は冬季で露天の「丸滝の湯」が封鎖されてい
るためなのか、タオルセット付きで750円だった。雪は音もなく静かに降り続ける。

　　　　　　　

■大きなガラス窓越しに脱衣所からも眺められる、沢と木立ちの冬景色はそれだけで
も圧巻だが、Ｂ１の泉の湯のぬる湯につかりながら湯船のへりに頭を乗せて、天から
ゆるやかに降り落ちてくる雪の舞いをずっと眺めていると、瞑想というよりも思い出
せない記憶の中に、この世の気分とは違った意識モードで浮き上がっていくようだ。

■菅原先生いわく、このラジウム温泉は第２チャクラに効く。第２チャクラといえば
生殖のチャクラだ。そういえば約1200年前に行基が発見したというこの温泉は「子宝
の湯」とも言われている。またアストラル体の調整にも効果があるとも先生は言う。
泉温が源泉で37℃、浴槽吐湯口で36.5℃のこの温泉は、いわゆる「ぬる湯」である。

　　

■ぬる湯は源泉をそのまま注いだもので、ぬるいというより最初は少し冷たいほどに
感じる。ほぼ体温と同じなのでじっくり長く浸からざるをえず、結果としてそれだけ
でも気持ちが静まる。他にも２～３人の客がいたが、穏やかに瞑想しているかのよう
に湯船に浸かっていた。菅原先生もじっと動かないで低温の寝湯で目を瞑っている。

■泉質は単純弱放射能泉だが、ラドンを多く含む全国的にも有数の放射能泉だ。自律
神経の乱れを落ち着かせるマイナスイオンが特に多いので鎮静効果が高く、また不妊
症にも効くという。放射能泉のラドンをなるべく長時間体内において作用させるため
に、ぬる湯の中でじっくりと湯治すると効果が大きいと言われている。

　　

■肌の表面に気泡がいっぱい付き、それを手の平で払うと炭酸のように泡が弾ける。
この泡は新鮮なお湯の証拠だという。日帰りではなく何日かここに滞在して毎日何時
間もただ浸かっていれば、日ごろの精神疲労も取れるに違いない。私自身も幼少時の
忘れ去ってしまった記憶か、前世的な雪の中の共時性を思い出しかけそうな気分だ。

■遠藤さんと時間を合わせるために１時間半弱で温泉から上がり、最上階にある大広
間の休憩所に行く。他の客は誰もいない。カーテンを開けると、外にはしんしんと雪
の降りしきる山あいの清厳なる景色が部屋の空間を取り囲んでいる。暖房を入れても
なかな温まらないその部屋で、遠藤さんの力作おにぎりを美味しくいただく。

　　

■菅原先生は私に「いっそここに残って湯治場生活でもどうですか？」と魅力的なこ
とを言ったりする。ここにはただいるだけで瞑想状態になりそうな静けさがある。「
いずれここで合宿でもしたいですね、湯治合宿！」と私。確かにここで合宿をすると
すれば、湯治そのものが瞑想のようだ。「湯治合宿」…何とも心地よい響きだろう。

（※）この当時は日帰り入浴が可能だった、現在はいずれかの宿に宿泊するか、日帰りプランを利用しないと、入浴することができないらしい。

★所在地：新潟県魚沼市栃尾又温泉 TEL.025-795-2211　
http://www.jizaikan.jp/furo.html

人生丸ごと湯治日記（５０９）　20020128 re.