（131）摩周湖と川湯温泉とアイヌの歌踊

■ほぼ予定通り５時過ぎに川湯温泉「川湯第一ホテル冬忍」に到着した。正面入り口玄関が透明なガラスではなく中の見えない厚板なので、思わず裏口に来てしまったのかと思ったほど和風の意匠に凝ったデザインだの宿だった。チェックインして部屋で一息ついていると、仲居さんが日があるうちに摩周湖を見に行かれたらと勧めてくれた。第３展望台までは車で30分もかからないので、尻が座る前に行って見ることにした。

■摩周湖もまた、布施明の『霧の摩周湖』という歌と、すぐに霧が立つので運がよくなければ湖面は見ることができないというイメージしかなかった。しかし訪れてみて初めて感じ入るものというのは確かにある。傾いた日が展望台の対岸をわずかに赤く染め、湖面はすでに日陰に落ちている摩周湖は、静かで神秘的で、何か目に見えないこの地の聖なる存在を想定するのも吝かではない静寂と神々しさを持って佇んでいた。

■折りしも振り向けば反対側には日差しが目を指すように鋭い太陽の光に守られるように大きな屈斜路湖が横たわっている。それは雄大で、神々しくて、そして何よりも静かだ。摩周湖の異質な空気の質と色を身に滲みこませて宿に戻ることにした。途中硫黄山の裾野で黄緑色の岩肌を眺めつつ走っていると、草むらからガリガリに痩せた北キツネがひょろりと出てきて、車道をふらふらと歩いて行った。その胸を揺する後姿。

　　　

■食事は食事所でお品書き通り揃えられている。思い切りバイキングもよいが、このようにしっかり出されるのもまた味わいがいがある。ひたすら頑張って食べていると、仲居さんが今度は近くの川湯神社でアイヌの踊りと歌があるからよかったら見に行ったらどうかと勧めてくれた。アイヌの人とは数年前に阿寒湖を訪れた時に、ほんの少し触れ合っただけだったが、実は私はあの幾何学的パターンに興味があるのである。

■歌と踊りを少しだけ見せてもらったが、その前にストラップ仕様にした彫り物を購入した。静寂の中で木を削って作った細やかな幾何学的パターンのあるもので、確かにこのように集中した意識で刻み込まれたものには、人との干渉によってお守りのような効果がありうると私は考える。姪っ子と甥っ子にお土産としてではなくお守りとして購入した。目の前で書くような速さで名前を削りこんでくれる技にも驚かされた。

■戻ってきてからようやく温泉に滑り込んだ。忘れていたがここ川湯温泉の泉質はpH1.6の酸性・含鉄(�U)−ナトリウム−硫酸塩・塩化物泉で、あの酸性・含硫黄−アルミニウム−硫酸塩・塩化物温泉である草津温泉とよく似た強酸性の温泉だった。つい癖で口に含むと濃い目のお吸い物の様に美味酸っぱい。３日で釘が溶けてしまうという湯質は体にはじんじんと聞いてくる。強烈な温泉である。

■源泉名は川湯第一ホテル１号泉で知覚的試験は無色透明で強い酸味と微硫化水素臭がある。１kg中の成分は陽イオンがＮa^＋476.4mg、Ｃa^2＋108.9mg、Ｍg^2＋73.0mg、Ｋ^＋69.2mg、Ａl^3＋61.9mg、Ｆe^2＋27.3mgなど合計861.8mg、陰イオンはＳＯ_４²⁻1372mg、ＨＳＯ_４⁻1161mg、Ｃl⁻1042mg等合計3579mg、遊離成分・溶存物質等の成分総量は4.904g/kg。湧出量は別記らしく不明のままだ。

(20070724-2)

人生丸ごと湯治日記（１３１） 2007.08.03 Friday