 今回の旅の眼目は指宿温泉の「天然砂むし温泉」を体験することだった。宿となる「指宿海上ホテル」に到着すると、世界でも類を見ないというこの砂むし温泉を体験すべく、早速近くの「砂むし会館砂楽（さらく）」に行ってみた。受付で料金９００円を払うと、砂むし専用の浴衣を貸してくれるので、脱衣所で服を脱ぎ、素肌に直接それだけを纏って、進路に従って砂浜に降りる。順番を待って係の人の指示通り砂中に横たわると、スコップで砂を手加減なくドカッ、ドカッと体の上にかけられて首だけ人間にさせられる。
どんどん熱くなっていって尻が焼けるように熱くなると聞いていたのに、５分過ぎではまだ涼しく、目安の１０分でも暑いという感じではない。ただ砂の圧力も手伝ってか、指先などがドクンドクンと波打つ感覚がする。仰向けになっているのと全身への砂圧が内臓などを圧迫していることとが、静脈の心臓への還流をスムーズにし、また５０度という高温が血管も拡張するとパンフレットには書いてあった。１５分頃にはこのまま眠ってしまいたいくらいにとても気持ちが良くなってきた。２０分、２５分と時間が経つうちに、一緒に入った人たちは満足してか、限界からか、次々と自力で立ち上がって去って行く。
このままいつまでも砂の中にいられるのではないかと思うほど、心身共に緩んでくる。顔の表面にうっすら汗を感じるものの、暑さからの不快感は全くない。砂の深さで温度調節をするというから、私の場合は少しだけ浅かったのだろうかとも思いつつ、一応３０分で出ることにした。しかし体の芯まで温まっていたようで、外気に触れた途端汗と水分が気化して浴衣の温度が下がっていき、寒く感じるほどだった。この後は会館に戻って浴衣を脱ぎ、シャワーを浴びてから大浴場でゆっくり温まり直すのである。ここにはサウナやジャグジーもあり、普通の温泉施設も揃っている。感想をただ一言。「砂むしは気持ちがいい。」
 砂むしの効果は普通温泉の３〜４倍であると医学的研究でも発表されている。この会館の資料によれば、ここ指宿の天然砂むし温泉の泉質はナトリウム塩化物泉で、泉温は泉源で８４.７度。無色透明で強食塩味で無臭。カルロス・カスタネダのドンファンシリーズなどには、土中に首まで埋まって悪霊から逃れたり、体内の毒を大地に吸ってもらったりする場面があるが、この砂むしにも体内の有形無形・可視不可視双方の毒を吐き出すということもあるに違いない。
既に日の暮れた指宿の街を歩いてホテルに戻ると、豪勢な食事が待っていた。部屋は海に面していて心置きなく寛げる広い和室だった。食事を済ませて一休みしたら、今度はホテルの温泉につかることにする。今回のツアーパックはシリーズ最終日で、いつもの半分ほどの３５人が参加しているというが、男性はわずか４人だった。他の客もホテルにはいるのだが、それでも男風呂はがらがらでほぼマイ温泉という感じだった。
画像のキャプション
上右：砂むしの真っ最中の私。最初は多数で入ったが、１人残ると外からは晒し首のようでもある。
左下：指宿の夜の町並み。私はこの広々とした道と清潔そうな町並みがとても好きになった。
テラバイト日記（１４７）20020930-4
|
