 日も暮れて少し心細くなりつつ、熊野川支流の湯の谷川に沿って車を走らせていると、賑やかに温泉街の明かりを映す川湯温泉に辿り着いた。しかし宿を見つくろっているうちに町並みを抜けてしまった。しかたなくそのままトンネルを抜けて進んでいくと、少し山道をあがったところにある湯の峯温泉の「湯の峯荘」というところに出た。時はすでに午後８時直前だったので急いで飛び込み、おずおずとフロントで泊めてもらえるかと尋ねた。部屋はあり食事もかろうじてＯＫだったので、まずはほっと一息。
湯の花もゆかしいこの湯の峯温泉は最古とも歴史上２番目に古いとも言われている温泉で、熊野詣の湯垢離場（ゆごりば）として有名らしい。足利氏との戦いに敗れた小栗判官が照手姫と共に悪路を越えて辿り着いたこの温泉につかって全快したという言い伝えがある。また当地で療養した佐々木小次郎が燕返しを会得したとか、お万という美女が慕っても叶わず入水自殺したというエピソードもあるそうだが、とにもかくにも湯に入ることにする。
行ってみると湯殿にはもう誰もおらず、ただ上質なお湯が人気のない湯船から贅沢なかけ流しで溢れていた。露天風呂に首までつかり体を伸ばす。真っ暗な山しか見えず、下の方では沢の音がする。昼の日差しで疲れた体がじゅわっと音を立てながら回復していくような感じ。湯質と湯量に関してはいうことなしである。ここの湯の峯温泉・泉龍の湯は重曹硫化水素泉に属し、無色透明だが硫化水素臭のある９１度Ｃのお湯が岩間から毎分５９リットル自然湧出しているとのこと。
ここの夕食のメイン料理である鴨鍋は、野趣豊かでとても美味しくいただけた。和室の部屋は広く清潔で、ゆったり寛げて申し分ない。湯殿の別棟として木製家屋造りの「鹿の湯」と温泉成分の濃い「くすり湯」という２つの家族風呂がある。木製スライド式の風入れ兼目隠しの窓も懐かしく居心地がよい。熊野地方に限らずこのあたりは温泉旅館の利用者が全体的に軒並み減っているという。地理的にこここまで辿り着くのが大変だが、ここはもっと広く利用されてもよいと思うお薦めの温泉宿である。
 
<画像キャプション> 上右図：温泉宿はやっぱり和室に浴衣が一番。ここの浴衣は私のお気に入り。
下左図：湯質最高の露天風呂。すぐ下が小次郎に恋破れてお万が入水自殺したという淵。
下右図：家族風呂の１つの「鹿の湯」。２４時間いつでも気軽に入れるのがありがたい。
テラバイト日記（１０２）20020721-2
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