猫やイルカやサッカーやビートルズ、プラトン立体やセンスの良いマンガ…。好きなものを好きだと控えめに言うことの幸せ。好きなものを数え上げるたびに、この世にはまだ私の知らない素晴らしいものや人が存在するということに気づく。好きなものはそれがそこに存在してくれるだけで元気を与えてくれる。それらがそこに存在してくれていることへの感謝は反転して、存在していないものへの感謝を自覚させる。

　ものごころついた時にはすでに身の回りに猫たちはいた。猫の瞳を通して自分というものが猫とは違う存在だと知った。猫は私の世界の一部そのものだった。私が猫たちを愛する時は、世界も猫たちを愛していた。光の中で猫たちは幸せそうだった。猫たちは私だった。イルカと共に泳がねば分からない幸福感というものがある。いまだ知らない人は幸せである。これから知ることができるのだから。

　とりたてて好きなものはたくさんあるのだけれど、特に嫌いなものというのはほとんどないような気がする。嫌いだという感覚にあまりフォーカスしないからだろうか。仔猫を捨てる者がいる。子供を折檻死させる者もいる。嘘をつき、人を騙し、欲望に身を任す人がいる。それは私だ。他者を愛し、世界を慈しみ、光を放つ人がいる。それは他者だ。他者は私をも愛してくれている。猫は浅い夢を見ながら眠り続けている。明日も晴れだ。