私が温泉好きなのを知っている江上先生は、夕食前にとりあえずと言って、車で２０分ほどのところにある原鶴温泉に連れて行ってくださった。寒い日に鶴が湯浴みしていた温泉から、この名前がついたという原鶴温泉は、筑後川が回り込むような形の地に２０数ヶ所の宿泊施設がある。この日は原鶴大橋を渡って左側にある老舗旅館・泰泉閣の温泉に入ることにする。 ユニークな常夏庭園付きの露天風呂・ジャングル風呂は改装中で入れなかったが、内風呂の「千歳の湯」と大きな屋根のかかった「カッパの湯」にじっくりつかった。この日は外気が冷えていたので千歳の湯はもうもうと湧き上がる湯気で五里霧中と言いたくなるほど何も見えない。湯煙の中、おとなしく湯船にじっくりとつかった。ＪＲ久大本線の田主丸駅はかっぱを大胆にモチーフにした形をしていたが、この筑後川沿いの原鶴温泉にあるカッパの伝説もまた、かなりユニークだ。カッパの湯に掲示してある「カッパの九千坊とポンポコの話」のあらすじは以下のようである。筑後川の一部を支配していたカッパの一人娘にポンポコという名の絶世の美女がいた。男勝りの彼女は年頃になっても男には興味を示さず、手下を率いていくさを続けてはその支配地を広げていた。一方カッパの九千坊は田主丸を中心に広い地域を支配していた。ポンポコの軍勢が九千坊の支配している流域まで来ると、その力は拮抗して一進一退が続き、長期に及ぶ消耗戦となった。ある日、ポンポコはスパイをしようと九千坊の領地に忍び込んだ。九千坊の姿を見かけて物陰に身を潜めていると、その男の大将は豪快に放尿を始めた。ポンポコはその九千坊の天をも突くかと怒張する逸物を見て女に目覚める。そして二人は結婚し、不毛な戦は終わって以後この地にはずっと平和が続いたのであった。戦で負傷した多数のカッパ兵士たちは、原鶴の地に湧く温泉に使ってその傷を癒し、以後この温泉は栄えたのである。  なんとも大らかなにしてストレートな話である。今このような話を創出すればセクハラだとか粗野にして下品などと言われるかも知れない。しかし男勝りの女性が異性に目覚めて戦さを止め、結果としてすべてが共に平和になるという、なんとも「いい話」ではないだろうか。そして温泉が傷ついた心身を共に癒し、温泉自体も栄えるという顛末も温泉好きには好ましいエンディングだ。 （※）画像キャプション右上：千歳の湯。右下：カッパの湯。 テラバイト日記（０５９）20011217-2 |
