３行日記2002　ＷＩＮＤ４０ 　　■ワールドカップ ワールドカップを見るためにスカイパーフェクトＴＶに入った。一生に１度だから と全試合を見る決心をした。嬉々として堪能する至福の日々。しかし試合が重なっ てくるに従って心身のただならぬ疲弊を自覚した。そうだ、毎日が濃過ぎるのだ。 ５月31日の開幕戦の後、６月１日〜18日は毎日１日に３〜４試合がある。つまり午 後の３時半〜10時半まで立て続けに試合があるので、ゆっくり休む暇もない。なら 興味のない試合を見なければよいのだけれど、残念ながらそんな試合はないのだ。 サッカーの試合を真剣に見ると、試合が終わるととても疲れるのだ。応援している チームが勝っても負けてもである。その余韻を味わう暇もなく次の試合が始まる。 目を離すと点が入ってしまうので画面に集中する。自業自得な過幸過福の日々だ。 ついに身体が悲鳴をあげて、熱を出し喉をやられて倒れてしまった。風邪である。 それでも寝てなんかいられないのである。大嫌いな薬を飲んで毛布にくるまり、体 の節々が痛むのを堪えつつ、画面にかじりつく。自覚の愚行、至福の愚者である。 ミルクと習字用スポイト、綿棒とミネラル水をコンビニで買ってミルクを飲ませ、 目やにを取ろうとしたけれど、日本がＷ杯で勝ち点３を取った歴史的な夜を越えれ なかった仔猫。デジカメの中にのみその姿が残る。死ぬために生まれ来る生物…。 　　　　 韓国の第２戦を見に家に戻る道すがら、道路端でセメントを塗りこめている作業員 を見た。世紀のイベントと言っても、仕事で見ない人もいる。楽しそうに話をしな がら働いている。潮騒のような車の音の中、強い日差しがその肩を焦がしている。 それにしても今回は新世紀初のワールドカップであり、多分もう一生の内に日本で 行われることはないだろう。開幕戦でいきなり前回優勝国のフランスの敗北に象徴 されるように波乱が多い。各国の実力が伯仲し、常識的安堵で見れる試合はない。 ３位決定戦の後のトルコと韓国の選手たちが、手をつないでフィールドから観客に 挨拶をしたシーンは美しかった。決勝戦。ブラジルの大歓喜のはしゃぎようの裏で 下を向いて動かないＧＫカーンに手を差し伸べたカフーのことを決して忘れない。 64試合全部を見たということは、別に何も誇れることではない。ただ自分自身に対 してのみ、私は自分を褒め称えたい。相手に対する尊敬の気持ちを持ち、全力で最 後まで戦う者たちの作り成す空間の与えてくれる勇気と感動と慈愛と未来への力。