０１．光る夏

降り注ぐ光と光と光が
草いきれ上で踊り回り
ポンポンとはじけ飛び
私の両頬につきあたり
目も開けられぬほどに
四方に満ちてきらめき
私の憂鬱をももぎとり
私はなぜとなく浮かれ
両手をいっぱいに広げ
胸と顔とに光を浴びて
喉につまる喜びに咽て
飛び出す言葉と声と命

宋国は５分で滅んだ
見る見るうちに
数多くの政策を掲げ
すぐに衰退していった
たった１ページ半の
世界史の教科書の中で
この薄っぺらい紙の上で
長い宋時代は踊る
そしてあっという間に
勉強の時点から
まっすくうしろへと
飛んで行ってしまった

夏休みは去り行こうとしている
８月３１日の昼下がり
プールで鐘の鳴り響く
道路工事の雑音が
気には止まらなかったのに
音がはたと止まった時
音なしの空間に放り出されて
静けさのあまりに驚かされた

夏休み
今　幕があがる
ひとりぼっちの

耐えかねる
夏休み
昔は楽しみに
指折って待ってた？

旅をしようか
幾日も列車に揺られて
光と緑のワルツ

ふた月見れない
みなの顔
極む　つまらなさ

　　　　炎天下
　　　　影を見る
　　　　ゆらゆらかげろう

幕が上がって
心は降りる
暑さが訪れ
胸はこごえる

この嘆き
受け止める人を
僕は知らない

夏休み
今幕が上がる
ひとりぼっちの

風になりたや
女を見れば噂が沁み
沈黙守ると息詰まる
風になりたや
世事に心むしられず
秋波にとまどうこともなく
風になりたや
眼に見えず息もせず
羨まれもせず誉められもせず
風になりたや
幸せの花風吹両手から撒き散らし
ただ静かにそばを通り過ぎるだけの
ああ…風になりたや…

飽きもせず雨が降る
紫陽花の色移り
蝸牛かくれんぼ
青空の切れはしが
東の空に見えかくれ
光る真夏が隠れてる

裏路地抜けると銭湯があって
暖簾を上げて娘がひとり
湯上りのほの匂いが漂う
黄色いタオルが目に染みて
どこかで知ってる年上の人
とんと名前は出てこぬもので
笑みを浮べて知らんぷり…

たまの日曜良い目覚め
ぽっかり空いた自由な時
家でごろ寝は不相応
黄金の一日何としよう

休日なのに定期を使い
横浜の港見たくて町に出る
梅雨のけじめのつかぬ空
まだらの青にかすれ雲

可愛い並木どこまで続く
板チョコ２枚小父さん買った
きっと子供におみやげだ
屈託のないその笑顔

　　　 いつの世もかしましい女学生
　　　 見とれる制服紺と白
　　　 朗らかな会話淀みなく
　　　 私に微笑み分けたりして

わんぱく悪たれ群れをなし
公園狭しとかけ回る
淡陽の中に葉のさざめき
お昼のサイレン遠くで伸びる

映画を一人で見るのもいいが
街はしっとり雨上がり
ほらほら私はすっかり風
だまってそばを通り過ぎるきり

誰も知らない私だけの幸せ
ほらほら私はすっかり風…

金髪の太陽が見詰めてる
燃える光はとんぼ返りをうつ
風すら隠れて囁いている
僕は無為無言で座ってた

鉄板が熱で揺らいでる
空のかなたで銀に煌めく雲
地熱で帰りきれぬ蟻が死んだ
僕はただ汗をかいて眺めてた

潮と小麦の匂いにむせて
夾竹桃は今日も紅色に笑う
昼休みの仕事場は黙りこくるだけ
僕はぽつねんと座ってた

僕はただ何もできず座っていたのだ
黄色い真夏の底知れぬ圧迫に耐えて

　

揺れおどる
腕時計
また痩せた
僕の腕
まだ月はじめ…

伸びすぎた
僕の髪
ブラシかけ
鏡の中
貧しきひとみ…

きれい好き
棚の塵
つかれぎみ
夢現つ
早くおやすみ…