早く大きくなるんだよ
可愛くきれいに咲くんだよ
光と水をたんと吸い
コスモス大きくなるんだよ

　　ひしゃげた時計
　　永遠を取り戻したんだね
　　張りもねじから飛んで
　　全てから解放されたんだね
　　ほこりをかぶって眠りについた
　　ぼくもぽっくり死ねたなら
　　あなたと同じになれるかな
　　ねえ、生きるって何…？

「春になったら君は
　もっときれいになりそうだから
　僕はこの冬越せそうだ…」

自分の幼さに放たれた憎悪の矢は
ひるがえり我がうずく胸をうがつ
胆汁色の液体が傷口から溢れ出て
自己愛の裏返し限りなき自己嫌悪

あどけなき少女が
僕の知らない片隅で
紅さして頬染めて梳り
だんだんだんだん
だんだんだんだん
大人の顔に変わっていく…
ぼくは嫌うほど魅せられていく
大人の愛なぞ知らぬと言うのに

そしてまたひとつ歳をとる…
全ては音もなく無に帰り
今新しい幕が開く
生きがいを追い求めて
ひとり前に進もう
憧れていたあなた
風に舞い上がる言葉
ほんのちっぽけな名声
すれら全てを河に流し
素足で先に進もう
地図はない
誰の足跡も残っていない
光の中　草がきらめくきり

もう秋なんだ秋なんだ
うつむきかげんが可愛いよ
冷たい水道の水
陽射しも傾き淡い
色づく稲穂きらりと
かけ足で行くよ、いいかい
かけ足で行くよ、いいかい

できれば私は女に生まれ
あざとき娼婦になりたかった

酒に酔えない醒めた夜さりに
悲しくみじめな秋の宵
嘲りながら更けゆくがいい
私は己れを憐れんで泣くだけだ

幾多の孤独な人生を横切り
私はこの手を血で染め抜いた
いのちがどんどん汚れ水に塗れ
老いが走るああいっそ砕けっちまえ

我が憧れの天上の女神(ソランジュ)が
ぬらぬらとした一匹のナメクジと知り
酒と涙の痩せ濡れ鼠
敬慕の幻はずたずたに切り裂けた

雨の中は地獄そのもので
私は小さな悪魔であった
持ち札をちらつかせたら
男は怯え女は泣いた女は泣いた

青春の焔のめぐりを飛び回る
一匹の老いた蛾こそが私であった
冷え冷えと澄んだ秋の大気の中
焼け爛れ燃え尽きて地に落ちた

できれば私は女に生まれ
あざとき娼婦になりたかった

　　＜１＞

韮の畑を抜ける小路に
ひっそり息づく心が揺らぐ

このささくれた胸を抱え
閉めたい風に嬲られるきり

己れの誇りに傷つけられて
己れの純潔に犯されながら

韮の畑を抜ける小路に
ひっそり息づく心が揺らぐ

　　＜２＞

今日も一日何もない
雨が降り風が吹くきり

骨だけの青春は朽ちていき
鳥が鳴き風の吹くきり

鏡の中には気怠い平和
花が舞い風が吹くきり

光の失せた宵の口
ただただ風のひとくされ

　　＜３＞

しめやかにすずゆかに
真夏の夜さりの雨が降る

時は闇に溶け流れ
光も弾け散り失せた

音もなく香りもなく
過去のなく未来もない

全てを濡らして夜が行く
私は何を恐れよう

　　＜４＞

今年も夏がゆきまする
どんより雲の空の下

熱と埃を舞い上げて
今年も夏がゆきまする

今年も夏がゆきまする
不快なだけの日捲りの上

どこまでも惜しまれて
今年も夏がゆきまする

　　＜５＞

川の端沿いの散歩道
水玉の少女のワンピース

木の葉のそよぐ小路の果てに
沈む夕陽の光の揺らぎ

二階から流れ来るピアノ
疲れ果てたキャッチボール

子を呼ぶ母と夕餉の匂い
遠い幸せが見え隠れする

　　＜６＞

神の愛した美少女
振り向きもせぬ美少女

それでも恵みは降り止まぬ
あわれなあわれな神と神

果て見えぬ遠い夢
戻るかたなき光の昔

神の愛した美少女
振り向きもせぬ美少女

　　＜７＞

己れの尾を追って痩せ犬が
どうどう巡りを繰り返す

早逝の夢を幻と代えて
はたちの分水嶺に向かう

かつて天使だった全ての人よ
翼よ空を切るか、翼よ

閉じた円環と垂直の方向に
新たなる振動で射出せよ愛

　　２０．ベクトルの抜けた方向

「おまえ編物もしたことあんのか？」
「ああ、ちんけな帽子ひとつっきりしか作らなかったがね。」
「で、誰か買ったかい？」
「うん、神なんか恐くねえ、親父おふくろ糞くらえってとんでもない奴が来て、天罰だろうなあ…買ってった。」