一　日　　　19830612

賑やぐ裏路地の魚屋と八百屋の間に
顧みられない老猫が一匹
毛は乱れ眼は片方潰れかけている
こいつの命はなんだったのだろう
こいつにも明日はあるのだろうか
何もできない俺の哀れみはなんだ

足早に通り過ぎ
振り返り
そして二度と立ち止まらない

夕暮れの公園の塵だらけのベンチで
抱きあって動かない男と女
月並みな男と月並みな女だ
こいつらの愛はどんな色合いなのだろう
こいつらの子供はどんな人生を得るのか
嘲るでもない俺の薄笑いはなんだ

思わず目を背け
また見詰め
そして二度と顧みはしない

寒い公園の汚れたベンチで
愛にのめり込むただ若いだけの男女
よりそう肩の寂しさ
ふたりでいるからなお寂しげな男女
湖面で鳴き交わす鳥

月並みに幸せをと歩きながら祈る俺を
尊大だとすら誰も言いはしないまま夏

俺の思いや考えなんてに
みんなおかまいなく生きていくだろう
俺の哀れみや同情なんて
意味のないがらくたとは知りつつも
そんな不細工なおもちゃ箱を抱えて
背を丸めて歩いている俺はなんだ？

今日という意味を探しつつ
明日という日のあることを信じなれば
暮れゆく情景の中に溶け込んでしまう

子供心に思っていた大人とは
立派で優しく勇気があって賢くて
そしてやっばり哀しげだった

俺の心は収縮しない
暮れていく公園の湖面のさざなみに沿い
どこまでもいつまでも拡散しゆく
夕焼けに染まり闇として沈むまで