（９８）菩薩

自我を超える事によって初めて
自我の虜になっている人に
自我を超えた在り方もあると
ほのめかし、気づかせる事もできる
自我を超えた在り方とは？
予想を拒絶する意外性を持つ
愚かに見えるほどに賢く
冷たく感じるまでに温かく
俗に見えるぐらい聖性を持ち
無カなまでになんでもできる

要するに自我の繰る言語・概念を超えている
自我の目にはパラドクスに映る
自我の世界には収まり切れない
自我は自我の内に自我を超えたものを予感し
驚き、感動し、そして押し黙る
自我の言語・概念の無力を知ったために

上位の者は常に自らハンディを背負う
分からない者に分からせようと自らを落としめる
救いがたい者に救いの手を差し伸べ
振り払われ、それでもまた手を伸ばす
愛する者は武器も防具もなく己が身を投げ出す
それはそうしたいのでもすぺきでもないのだ
ただそうなのだ、そしてそれは無上の喜び
菩薩に栄光あれ!　キリストに光栄あれ!
そしてそれは既にあるのだ
何も持たず人と人の間に降り立った時既に

超えるのは常に当人
しかし当人のみでは超えられない
縁としての慈悲の表れがなくては
…しぐさ、言葉、ぬくもり、差し伸べる手
気づかなくてもいいのだけれど
気づいてもいいのだけれど
ただ気づきさえすればいいんだけれど
気づかないとは縁なき闇夜の荒野
気づかないとは精子と巡り会えぬ卵子
質を量でカバーしている自然に過ぎない？
しかしどの単体も同じ可能性を持っているのだ
潜在性を秘めているのだ
気づかなくてもいいのだけれど
気づいてもいいのだけれど
ただ気づきさえすればいいのだけれど