 「卒啄」という言葉がある。「卒」とは孵化しようとする雛鳥が卵の内側から殻を突つく事、「啄」とは時を同じくして母鳥が外側から殻を突つく事。その結果雛鳥は無事この世に生まれる事ができるのだ。これはそもそも禅の言葉で、機を得て両者相応するという意味である。母鳥の啄が早すぎたら雛鳥は未熟なまま外気にさらされて死んでしまうし、遅すぎても卵の中で腐ってしまう。この内と外の共時性には、次元を超えた同期という重要な概念が含まれている。
孵化直前の卵の内部は、実は雛にとって地獄のような状態でもある。毒素に転じかけている自らの糞や尿やガスで、もはやこれ以上そこにいる事ができない状況であり、未来は卵の外にのみ存在する。出産直前の人間の胎児にとっての子宮の中もまた同様である。澄んで永遠のゆりかごのようだった羊水も、新陳代謝の激しい末期には浄化作用が追いつかず、濁ってそこは地獄のような状態になっていく。しかし出産においても内と外との共時性が存在する。母親と胎児のシンクロはもちろん、子宮という胎児にとっての全世界の外側では、愛情を持って生まれ出る子供を待ちわびる者や、様々な準備や介護をしてくれる者がいるのである。
胸の中の羊水を吐き出し、大気を吸って産声を上げた赤ん坊も、人間社会の中で成長していき、やがて自我に芽生える。さらに成長すると今度はそのエゴの殻が限界となり、プライド対愛情の内戦のような個人的諸問題で息が詰まってくる。しかし苦痛と煩悶ばかりの地獄のような世界で、それでもエゴの殻を超越しようともがきあえいでいれば、その外側から絶妙のタイミングで他人がアドバイスしてくれる。もしくは徹底的にその幻の界面を外側から叩き潰してくれる。
２０１３のジグソーパズル(６−５)/1998
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