（０１４７）人形の腹を割りたかった少年

19870121　自我への感謝。「彼」は自分の強烈な自我を持て余し続けた。それに振り回され、その欲求を満たせない時は、打ちのめされて苦しんでいたものだ。しかし今考えるに、その強烈な自我があったればこそ、それを乗り越えることが出来たのだ。ゆえに「彼」はかつての強烈な自我に感謝する。あの苦しみもまた、無駄ではなかったのだ。自我とは飛躍する時、よって立つ大地だ。

19870122　あるいたずら。大戸屋で食事を取ろうとしてはし立てから割りばしを抜いたら、その先にポールぺンで「当たり、もう一本」と書いてあった。誰か客がいたずらをしたのだろう。笑えるジョークだ。実際30本以上の割りばしから、まさにそのらくがきのある割りばしをつかんだのだから、当たりには違いないのだ。気に入ったのでそのはしを使って食事をする。これは先日ロンロンの洋式トイレに入ってドアを閉めたら、その内側に「よく来たな、まあ座れや」と書いてあったのを見て笑ったのと同じ感覚だ。攻撃性のない好ましいジョーク。

19870124　人形の腹を割りたかった少年。「彼」は遂にある日それを実行し、その破られた腹部からおがクズや藁が飛び出しただけの人形を見て失望してしまう。そこにはすでに末顕の真実や内在する秘密などはなかった。「彼」はその内部に憧れることなど妄想に過ぎないと思い、二度と人形に見向きもしなくなった。しかし本当にそこには何もなかったのだろうか？割ったと同時に目に見えない何か大切なものが、永久に飛び去ってしまったのではなかろうか？また一体の人形の中に何も発見できなかったからといって、他の総ての人形も同様だという発想自体に問題はないだろうか？

19870126　ひとりよがりの王国にて。ひとりよがりの王国のたったひとりの国民である王様は、他国の人達に自分を王として認めて欲しいと切望していた。「彼」はその自分を認めて欲しいと思うことの愚かさを自覚してそれを止めた。そして「彼」はまさにそのことによって他国の人達から王として認められるに至った。　

吉祥寺百景（０４８）19870121〜19870126