(19850123) 新宿駅通路。冬の昼下がり。心無い人の吐いた痰が乾いてこびりついている。その上に何も敷かずに横たわる浮浪者。この世を諦めた眼をして、しかしまだ生を諦め切れないでいる。誰も彼を正視しない。子供すら省みない。ポリバケツからスパゲティの残飯をつまみ出し、チュルチュルと音を立てて飲み込んだときの、あの無表情な顔。誰も彼を意識しない。彼も誰も意識しない。これだけの人の通る地下道での、この見世物は何だ。誰も見ていないこの見世物は何だ。
(19850201-1) 自由を奪う自由。自由を放棄する自由。想像を絶することは、想像するしかない。今までの価値観では、人間が多すぎると１人１人の価値が下がってくる。どこから来てどこへ向かうか知らないまま、この世にちょっと立ち寄っただけの人ですら、面白おかしく過ごそうと考えている。
(19850201-2) 翻訳の個人的限界。フロイラインはドイツのお嬢さんにこそ似合う言葉であり、日本人に当てはめようとしても、とてつもない無理がある。民俗、言語の違いは例えば少女を表す単語なら、その民族の少女だけを表す響きがあって、それにこだわらない人はあまり信用できない。
(19850201-3) 殺されていく娘の胸のふくらみをじっと見つめていた観客たち。人を諌めるほどの慈悲も傲慢さもなく、ただ見つめていた。いとしい男を待っている女の体がどれだけ大きく広げられていることか。
吉祥寺百景（０１２）19841113〜19841116
|
