今、手元に２枚の写真がある。１枚は月を周回するミッションを帯びたアポロ８号から撮ったもので、月の荒涼とした地平線の向こうから、半月のように陽光を浴びて昇ってくる「地球の出」の写真だ。漆黒の闇の中にはかなげに、しかし光り輝いて浮かぶ地球。人類が月まで行くことによって、かえって地球自身を再確認させしめる映像だ。
この写真を眺めていると、目頭が熱くなるのはなぜだろう。この惑星の画像を見る時、私は自分が地球を無条件に愛していることを知る。そしてそれ以上に地球に愛されているということも。地球が人間を愛している。それはひとりよがりの妄想だと言うかもしれない。それは否定しない。論理的根拠を持って納得してもらうことは出来ない。それでも自分がある種非正常であることを認めるだけの正常さは持ち合わせているつもりはある。
もう１枚は白と青に輝く地球をはるか下方に、命綱もなく宇宙空間に浮かぶ宇宙飛行士の写真だ。宇宙空間を背景に地球と人間が１つのフレームに収まっているショット。与えられた想像力を精一杯使って、その地球を映し込んでいるサンバイザーを突き抜け、はるか上空の宇宙空間から眼下の地球を眺める視座にいる自分をイメージしてみよう。そしてその高みから見ればほんの薄皮１枚の大気の底で、精一杯生きている友人知人や全ての人たちのことを考えるのだ。
そうすると人間だけでなく様々な動物や植物や鉱物たちとすら、どれだけ身近に共存しているのかを実感を持って思い知らされる。全てで１つであるという真実が体の中を駆け巡る。長きに渡って様々な過ちと成功を繰り返しながら、ようやく私は今この視座を獲得し、かけがえのない地球といとおしい生命たちを見ているのだ。「地球に優しい」などという傲慢なキャッチフレーズにもかかわらず、常に「地球は優しい」ということが全身で分かる。
…その時メタな次元で位置の反転が起こる。衛星軌道上からはるか眼下の人間世界の幸せを祈っていたはずなのに、今地上のこの部屋の中で、その幸せを祈られていた１個体として存在している自分自身に気づく。全ての者の幸せを祈る意識と、メタな視座からは常に愛されている個人という自覚の、どちらをも生きる自分への軽いジャンプ。この美しくも愛しい地球を衛星軌道上から眺めている自分をイメージしている、今ここにいる地上の私。
その時私は、その２つの位置を等価に見ることができる第３番目の視座を確立できるのだろうか。この自覚もまたどこか別のところで、今ここの自分をイメージしているだけなのだということはないのだろうか。いやすべては今ここだけで生きているのではなく、同時に多数の場所にいる自分をイメージしたことによる、イメージの逆照射であったりはしないのだろうか。
replaced
on 20001020,KIN185,red electric serpent
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