（０１９２）同じ物を同じ様に見ても同じ様には見えない

19880121-1　カノン
（ある学校の先生が生徒たちに質問する)

教師Ｏ：来たるべき未来に備えて受験勉強をするのと、今現在を人間らしく生きるのとどちらを選ぶかね?
生徒Ａ：前者です。私の目標は全人類の平和ですが、そのためには先ず足元から固めて行かねばなりませんから。
教師Ｏ：良い答だ。
生徒Ｂ：後者です。小事に囚われず小事を用いる心で勉強からも逃げはしませんが。
教師Ｏ：良い答だ。
生徒Ｃ：両方です。二者は対立・矛盾するものではありませんから。
教師Ｏ：良い答だ。
生徒Ｄ：どちらでもありません。二元的選択に拘泥せず私は生きています。
教師Ｏ：良い答だ。
生徒Ｅ：（無言でにっこりする。)
教師Ｏ：良い答だ。
全生徒：ところで先生は私達にどんな答を望んでいるのですか?
教師Ｏ：答は問う者の内に有り…と。
全生徒：良い答ですね。

19880121-2 外を歩きながら色々な物を以前よりよく見るようになってきた。この木はこんな枝振りだったのか。この塀はこんなパターンだったのか。この家はこんな造りをしていたのか。この通りはいつもよく通る馴染みの道だ。しかし一度だって以前と同じ様に見たためしがない。同じ物を同じ様に見たとしても同じ様には見えはすまい。同じ様に見ているつもりの幻想が有るだけなのだ。この一回性。しかしそれと同時に表面的変化を超えて存在する同一性。

吉祥寺百景（０９３）19880121