（０１７６）能動的断眠による意識変容

　能動的断眠とは意識的に可能なかぎり睡眠を断つ事である。この能動的断眠の可能限界域付近での経験は非常に豊かだ。ほんの瞬時にして通常とは異なる意識焦点の世界を垣間見たり、それまで思いもつかなかった経験をしたような記憶が蘇ったりする。その記憶が実際のものか、それとも実際にその経験があったかの様に思い込む錯覚なのかは定かではない。

　ただその時は断眠努力にも係わらず、通常感覚意識がふっと瞬間的に途絶えて、睡眠側に反転する事により、ピンホールから外界を見るように、時間感覚変容による膨大な量の経験圧縮が有りうるようだ。ここは意志によるこの能動的断眠による意識焦点継続の努力を解けば、そのまま夢の世界へと続いて行く限界領域、すなわち睡眠と覚醒の間のトワイライトゾーンなのだ。

　そしておそらくこのトワイライト域は覚醒側へ向かうベクトルを持つ限界域であり、この断眠努力を解除する(もしくはこの努力が断たれる)と睡眠側のトワイライト域(つまりベクトルが逆向きのトワイライト域)に反転するのだろう。しかしそのまま通常感覚に戻って来ると、その記憶内容の確かさが、この現実世界の感覚に対してどんどん減少して行く。その記憶の内容が実際あったと判断して、一生懸命その内容を忘れまい、記憶しておこうと努力するにもかかわらずである。実のところ、この現実世界そのものも、何ら依って立つ確かなものがあるわけではないのではあるのだが。

19871014-3
　　　　　もの言いたげな目のもの言えぬ猫
　　　　　もの言いたげな目のもの言わぬ君
　　　　　猫はもの言えず　君はもの言わず
　　　　　言わずも言えずももの言う様なり

吉祥寺百景（０７７）19871014