0112night

(19850201-4)　きのうの夕方のことだ。都営新宿線の神保町駅の窓口で、一万円札を両替してもらおうと列に並んだ。彼の前のおばあさんが自動券売機のおつりが１０円足らないので、窓口の駅員に尋ねている。声が小さいので駅員はよく聞き取れない。彼の後ろにもみるみる列ができる。駅員は大声で説明する。その声にイライラした様子が感じられる。窓口に並んだ人々に、自分の責任ではないのにといわんばかりにイライラするふりをする駅員。かわいそうなおばあさん。１０円を握らせて追い出すように改札口に向かわせる駅員。次の「彼」の番になる。駅員はやたら愛想がいい。共通の被害者意識を全面に出して言う「おまちどうさま。」イラつく気持ちお察ししますという面持ち。乗車券を買って改札口に向かうと、一部始終を見て知っている他の駅員までも愛想がいい。「彼」は駅員たちも可哀相な気がする。ホームに出るともうさっきのおばあさんはいなかった。何も知らない電車がホームに滑り込んでくる。

(19850201-5)　確かにこの町は人が多すぎる。ラッシュアワーの電車の中と大差がない。誰もここでは落ち着いて考えられない。落ち着いた恋ひとつできやしない。目移りがして仕方がない。みんな多すぎる人間を不快に感じている。でも誰も少し死ぬべきだとは言わない。殺人があると義憤する。最初に殺されるのが自分でないと言えないから。不快な雑踏の中で不快の一部になっている各人が、どこか矛盾で窒息しかけているこの街…。　

吉祥寺百景（０１３）19850201