0110night

(19841227-1)　話をしていて時々感じる「ああ、この人と話してもすぐには分からない。懇切丁寧に教える暇も義理もない。」というような思い。あれは死ぬほどのものではないが、確かに一つの絶望感だ。酒の席では血も凍る。相互理解への普段の努力を続けなければならないのだが、全然分かっていない者の前では、どんな対話が弾むと言うのだろう。

(19841227-2)　新宿のある映画館の前で、松葉杖の小さな女の子がスチール写真の看板に寄りかかって地面を見ていた。その弟らしい男の子も、アスファルトの地面を見つめている。そこには路上にこぼれ散ったアーモンド入りのチョコボールをかがんで拾っている女性がいる。おそらく母親だろう。無心に拾い続けている。年末の夜風は冷たく、吐く息を白く流す。そばを通る人たちは誰もこの３人に気を止めない。母親もまた周りを気にかけない。町の灯りが時々３人に光を集める。女の子のセーターの袖の小さなほつれ。なかなか集まらないチョコボール。寒そうに手をこする２人の子供。垂れ流しのように聞こえてくる、年の瀬をあおる俗悪なメロディー。

(19841227-3)
　　　混雑する電車の中で大事そうにレコードを胸に抱く少年。
　　　ほらほらあれがテクノロじいさんだ。
　　　ああしてじっとディセンばーさんを待っている。

(19850110)
　　　｢彼」より若い全ての人々に
　　　｢彼」より長生きする全ての人々に
　　　まだ生まれていない全ての人々に
　　　｢彼」は何をしてげられるだろうか
　　　何を残してやれるだろうか
　　　こうしている間にも人々は死んでいき
　　　こうしている間にも細胞は死んでいく
　　　冷や汗だけが残り
　　　やがてそれも蒸発する
　　　まだ考える時間はある
　　　生きよ…

吉祥寺百景（０１１）19841113～19841116