（０１０２）売春について考える彼

(19841117)　「勉強なんかしなくても、裸になってひっくり返れば、いくらでも金になるからいいよな、女は。」という男がいる。「自分の体を自分の意志で売ってお金を稼いでなんでいけないのよ。何も文句言われる筋合いはないわよ。」という女がいる。石油産油国に外国人が集まってきて言う。｢何もしなくていいから、石油を掘らせてくれさえすればお金を出そう。｣年頃の娘に男たちが集まってきて言う。｢何もしなくていいから、体を楽しませてくれるならお金を出そう。｣

　産油国が石油を売って暮らすのが安易なら、少女が自分の体を男に楽しませてお金を稼ぐのも安易な選択だ。では産油国の石油が尽きたらその国はどうするのか？もし代わりのエネルギーが発見されたらどうするのか。顔でなくて心に致命傷を負ったらどうするのか。資源が尽きたら、魅力が尽きたら。

　産油国もいつまでも愚かではない。自国管理下に置き、原油価格を操作しようと努めている。では体を売っている少女たちはどう考えているのだろうか。もしやめなくてはいけなくなった時、それまでにかせいだ金で人生の最後まで生活するか？いい男を見つけ、だまして結婚するか？それともやけくそ人生、あっさり早死にをするか？

　このようなことを考えると、すぐ胸が詰まってきて辛くなる。最初のセリフを聞かされた女の人は悲しくなってしまうだろう。次のセリフを聞いた男の人は、やはり悲しくなってしまうだろう。そんなことを考える「彼」もまた悲しくなってしまう。まだこの件はよく考える必要がある。ただひとつはっきり言えることは、悲しみがにじみ出ている事実から、人に苦痛を与えているのを知りつつ、あんたの知ったことじゃないから引っ込んでいてくれと言って、背を向けて知らん振りを決め込むことができるのは、まともじゃなくなっているということだ。

　人類最古の職業の一つが売春だといわれるが、「彼」はそれを一つの職業として平然としている経済や社会そのものを認めているわけではない。

吉祥寺百景（００３）19841117