 #743
日本列島人の過去と未来
■１■「人種」とは現生人類を骨格・皮膚・毛髪などの形質的特徴によって分けようとした区分のことだ。しかしこの人種には未だに決定的な定義がない。最近の人類学者は政治的な曲解を恐れて人種問題を避ける風潮がある。また遺伝学志向の強い人類学者は、遺伝関係が不明瞭な人種という概念を認めない。
■２■現生するヒトは遺伝的に極めて均質で、種や亜種に値する差異も存在しないとされている。人類は様々な気候や地形に適応してきたので、アニマンダラ氏が生物の「種」と「自我」が同一機能として対応性を持つという「種我同型論」を展開するほど、種として最も分布が広く個体差も大きい動物である。
■３■学説史的には1775年にドイツ人のブルーメンバッハが、人間を白・黄・黒・赤・茶の５色の人種(※1)に分類したのが始まりだろう。しかし狭量で偏見に満ちたこの説より、世界中から赤・白・黄・黒・青の各人種が集って催したという、熊本は幣立神宮の平和記念祭の方が、どれだけ古く先進的なことか。
■４■人間の認識は視覚に大きく頼る。現在では分子生物学の成果などを踏まえ、現人類は出アフリカの後、南・北・西の３ルートで拡散したと考えられている。すなわち南ルートをとった集団がオーストラロイド、北ルートがモンゴロイド、西ルートがコーカソイド、非出アフリカがネグロイドとされている。
■５■近年のＤＮＡ分析によれば、モンゴロイドはイラン付近からアルタイ山脈周辺へ北ルートで移住した人々が、周囲の自然環境により他人種との交流を絶たれ、独自の遺伝的変異及び環境適応を経て誕生した「人種」だと考えられている。原初の居住地はヒマラヤ山脈及びアラカン山脈の東及び北側である。
■６■モンゴロイドは大きく「北方モンゴロイド」（東アジア中北部、アメリカ）と「南方モンゴロイド」（東南アジア）に大分できる。また寒冷地適応を経る前の形質を残すものを「古モンゴロイド」、東ユーラシア北部の寒冷地域で独自の寒冷適応を遂げた集団を「新モンゴロイド」と区分されている。(※2)
■７■古モンゴロイドは寒冷地適応前の古い形質であるところの、彫りが深い立体顔、低めの身長、二重瞼、多い体毛、湿った耳垢、波状の頭髪などを持っている。一方、新モンゴロイドは寒冷地域に適合した体質で、比較的体格が大きく、凹凸の少ない顔立ち、蒙古襞、体毛が少ないなどの特徴を持っている。
■８■アイヌや東南アジア人、アメリカ先住民などが古モンゴロイドであり、中国人やモンゴル人などが新モンゴロイドである。古モンゴロイドはさらに北方系と南方系に区分されている。日本列島の縄文人、アイヌ、琉球人は北方系古モンゴロイドである。南方系古モンゴロイドは、丸顔で鼻が低く唇が厚い。
■９■新モンゴロイドは北方にのみ認められる形質である。つまり南と北とに分かれた後に、北方モンゴロイドの一部から新モンゴロイド的形質が生じて広がったということになる。日本列島に到達した縄文人は古モンゴロイドとされている。日本列島の縄文人、アイヌ、琉球人は北方系古モンゴロイドである。
■10■日本列島の場合、先住の縄文系が古モンゴロイドであり、後の渡来系弥生人は新モンゴロイドである。列島全体においては、渡来系弥生人と縄文系弥生人の遺伝子が混ざり、その後の日本人が形成されたと考えられている。今後の分子生物学のより精緻な解析が望まれるが、もちろん科学が全てではない。
■11■ここ半世紀間における日本人の身体的特徴の変化は著しい。人種の分岐形成は環境適応から成されるとされるが、私たち人間の特質は外見の身体的特徴だけではない。民族的気質や特性は社会的文化や慣習や言語その他からの共鳴補強されるし、地政学的な周囲との関係も少なからぬ要因となるであろう。
■12■日本列島人は、新天地を求めて渡来した人達や難民化した人々とも、豊かな自然と温厚な性格を背景に、戦うより平和共存することを長きに渡り選択し続け、それにより技術や遺伝子の多様化も進んだ。居住する土地や用いる言語や自然観も、現今の日本人気質形へと続く大きな要因となったことだろう。
■13■人種という切り口で過去を見てきた。これまでもそしてこれからも、人種の新しい分岐は単なる外的環境や物理的状況だけでなく、人間の「意識」の在りようや「意志」の向かう方向性なども、その要素であり得ると考えられまいか。翻って今後の未来を眺め見る時、私たちは新人種を内包しているのだ。
…………………………………………………………………………………………
(※1)それぞれコーカシア(白色人種)、モンゴリカ(黄色人種)、エチオピカ(黒色人種)、アメリカナ(赤色人種)、マライカ(茶色人種)。
(※2)この場合の「新・古」は、寒冷適応を経ているか否かの違いを表した分類であり、進化の程度が「新しい・古い」という意味ではない。。
  
|
