#702 特異なる独立言語としての日本語　

　

■１■文字を持たない言語はある。発音がすでに分からない文字も残っている。しかし現在の言葉は基本的には音声と文字を持つ。言葉は誰にとっても身近で、自分の周辺にあり内部にもある。言葉は意のままに操ることができ、しかも思いの丈を伝え切れないものでもある。しかも言語の発生については何も分かってない。

■２■言語自体がなぜ存在しうるのか。言語空間とはそもそも何か。なぜ言語を以って瞬時に意志の疎通ができるのか。そんな中で言葉をもって言葉を語ることや、言語を用いて言語を論じること自体、実は根本的にパラドキシカルである。しかしそれは回避するものではなく、中心を突き抜けるべきものであると言えよう。

■３■日本人が日本語を用いて他国語との関係を論じる場合、他言語との差異を考慮に入れずにそれを成そうとすれば、かつての日本語研究者たちのような過ちを繰り返しかねない。母国語と他国語の差異と相似を知り、バイリンガルから返って母国語と他国語を等距離で見ることによって、初めて新しい視座が獲得できる。

■４■日本語のルーツは南方なのか北方なのか、混合説にしてもどちらがベースでどちらが優勢なのか、諸説紛々で決定打がない。日本語はルーツが不定であるのみならず、言語的に近いという意味での親類というものがない「独立言語」である。つまり実のところその起源に関してはこれまたほとんど分かっていないのだ。

■５■日本語は縦書きだけではなく横書きもある。また横書きにおいても左から右に向けてだけでなく、右から左にも記述して読むこともできる。現在の私たちにはかなり読みにくいが、半世紀以上前までの新聞の見出しなどにはその右から左への文字列だった。現在でも自動車の横に会社名等を入れる時にそれが見られる。

■６■このように右から左へ読み進む表記法はアラビア語のほか、古代エジプトのヒエログリフ等もそうであった。それにしても３方向へ読めるように表記できる言語はそう多くない。もちろんただ読むだけなら、下から上へ書いても読める。縦にも横にも読める言葉には、中国語やハングル語等の他にマヤ語の文字もある。

■７■中国の漢字やマヤ文字には文字自体そのものに読み方と意味があるので混乱が少ないが、アルファベットのＤＯＧとＧＯＤ等のように、左右読進によって意味が変わってしまう。それでも無理矢理右から左に記述するならば、読みにくいが方向性を保持しているレオナルド・ダ・ヴィンチのように鏡文字になるだろう。

■８■ほとんど全ての他国語を文中に取り込めるという意味でも日本語はユニークな言語である。日本語の５母音それぞれのフォルマントは、５つのプラトン立体の関係のように対称的かつ入れ子構造になっている。日本語は幾何学的に美しいという表現をした。しばしその50音図や音節の全体構造を見ていくことにしよう。