ところで現在の１年は３６５日だが、遠い過去や遥かな未来でもこれは不変なのだろうか？マヤの２０進法では、他の日にちの桁はすべて２０で１つ繰り上がるというのに、ほぼ１年に相当する１トゥン(３６０日)だけが、２０ではなく１８ウィナル（１ウィナルは２０日）になっている。これは現在のところ、地球の１年との整合性を持たせるためであると解釈されている。しかし正確な時を刻むことに長けていたマヤ人が、本当に１年３６５日との整合性を念頭に入れていなかったのだろうか｡１年が２０ウィナルで４００日であったということはなかったのだろうか？もしくは１年がちょうど３６０日となるようなことが今後もありえないのだろうか？

　サンゴには造石灰細胞という炭酸カルシウムを作る細胞がある。その細胞が海水中に溶けている二酸化炭素とカルシウムイオンを結合させて炭酸カルシウムを作り、石灰質の殻として沈着させているのだ。この活動は日中に活発となり、夜はあまりなされない。その結果地上の樹木が年輪を示すように、ある種の海中のサンゴには年帯のほかに毎日の成長帯を示す日帯というものが形成される。現在のサンゴのそれは１年に３６０といくつと数えられているが、昔に逆のぼるほどその日帯は数を増す。

　 昔の地球の１年が何日だったかは、その年帯の中にある日帯を数えればよい。標本類は様々な破損を受けてはいるが、それでも正確な記録が取れる。そしてそのデータから３億４千５百万年前（デボン期）には１年が３９６日であったことがはっきり判明している。魚類や両生類はこのあたりの時代に生まれた。また今から４億年程昔のシルル紀やオルドビス紀などと言われている時代の原始的なサンゴには、４００個もの日帯があることが知られている。４億年前という数値の精度はともかくとして、地球はその昔１公転の間に４００回の自転、つまり１年が４００日であった時代もあったということだ。当時の地球は現在より１公転の速度が１割ほど遅かったのだろうか？それとも自転速度が速かったのだろうか？

　実は何世紀にも渡る天文学者たちの成した現在までのデータの集積と分析から、科学者たちは現在の地球の１日は１年につき１８マイクロ秒(１８／１,０００,０００秒)ずつ長くなっているという結論を出している。日に２回の干潮・満潮による海水の流れが海峡を通過する時に摩擦を生じ、それが地球の自転に対してブレーキをかけるというのが現在の定説だ。かなり荒っぽい計算によると、この世界中の海峡が地球の自転を遅らせるエネルギーは１５億キロワットにもなる。４億年間には約２時間ほどのずれが生じるので、１日は２２時間しかなかったということになる。そしてこの１日の時間が不変であったとすれば、４億年前の１年は３９８日からなっていたことになる。

　また自転が遅くなると、月はその分地球から遠ざからなくてはならない。そして実際に月は、毎年２センチメートルずつ確実に地球から遠ざかっているのだ。単純に比例するわけではないが、この２センチメートルを９億７千万倍してみれば１９，４０００キロメートルとなる｡かりに現在の月〜地球間の平均距離３８４,４００キロメートルからこれを引くと３６５，０００キロメートルとなる。また未来方向で考えれば、７億８千万年後には４００，０００キロメートルになる計算である。

　これはもちろんカオス的揺らぎや外的要因を考慮に入れない単純計算である。しかしその仮想の過去や未来の上に表われた数値は、現存する化石や惑星力学に基づいているので、現在というものを考える上で全くのナンセンスではない。さて、そのような遥かな昔のことや、気の遠くなるような未来のことについては、いずれ別のところで考えるとして、今は私たちが生きている現在の１年がなぜ３６５．２４２２日、もしくは３６５日であるのか、そして３６５という数がいかに私たちの精紳の中に深く食い入っているかなどの問題に立ち戻ることにしよう。なお下の表は現在の定説による地質学的な系統表である。

(上下表とも地学ハンドブック／築地書館を参考に作成)