Ｄ-008　惑星軌道のプラトン立体モデル

■１■ケプラーの｢惑星軌道殻連結のプラトン立体モデル｣を見てみよう｡まず水星の軌道殻を内接させた正８面体の外接球が金星の軌道殻になる。そしてその金星の軌道殻を内接球とする正20面体の外接球が地球の軌道殻となり、その地球の軌道殻を内接球とする正12面体の外接球が今度は火星の軌道殻になる。

■２■さらにはその火星の軌道殻を内接する正４面体の外接球が木星の軌道殻となり、最後にその木星軌道殻を内接する正６面体の外接球が土星の軌道殻となっている。つまり<<水星⊃正８面体⊃金星⊃正20面体⊃地球⊃正12面体⊃火星⊃正４面体⊃木星⊃正６面体⊃土星>>という入れ子構造になっているのだ。

■３■これをより詳しく示したのが下図だ。まず最初の<１>だが､水星(青い小球)の公転軌道を含む黄色い球体が正８面体の内接球になっている｡次の<２>の水色の球体は正８面体の外接球であり、金星(黄色い小球)の公転軌道を含んでいる。<３>はその正８面体の外接球を正20面体の内接球に変換した図である。

■４■<４>はこの正20面体の内接球を外接球に反転した図で、その黄緑色の球体が今度は地球(緑の小球)の公転軌道を含んでいる。<５>はこの正20面体の外接球をそのまま正12面体の内接球に変換した図で、<６>は正12面体の内接球を外接球に反転した図で、橙の球体は火星(赤い小球)の公転軌道を含んでいる。

■５■<７>はこの正12面体の外接球を正４面体の内接球に変換した図、<８>は正４面体の内接球を外接球に反転した図であり、青い球体は木星(水色の小球)の公転軌道を含んでいる。<９>は正４面体の外接球を正６面体の内接球に変換した図であり、最後の<10>は正６面体の内接球を外接球に反転した図である。

■６■最後の紫色の球体が土星(オレンジ色の小球)の公転軌道を含んでいる。以上で６惑星と５つのプラトン立体の内接球−外接球との関係が作る入れ子構造モデルが完成する。「なぜ惑星軌道の数と大きさは今あるようになっているのだろうか？」というケプラーの自問がこの美しいモデルを完成させたのだ。

　　　金星・地球・火星の軌道殻と球体で表した正12面体・正20面体の関係

■７■このような互いに安定するような軌道に惑星が存在することを、現在私たちは｢軌道共鳴｣という名前で呼んでいる。しかし名前を付けるだけでは「なぜ物事が今あるようにあるのか？」という本質的な疑問の解答は得られはしない。共鳴とずれ。ずれもまた異なるレベルでの秩序の美しさを持っていよう。

■８■実のところケプラーも知っていた通り、これらの惑星の軌道は真円ではなく楕円なので、それぞれの球殻には太陽との距離が最遠になる遠日点と、最近となる近日点の差分の厚みがある。このずれこそが世界を回しているのであり、これがなくなり完全な調和状態になったら世界は静止してしまうだろう。

■９■ではそのずれが実際にはどれだけなのかを下表で見てみよう。比較参考のために現在の値のほかに、コペルニクスが用いていた値及びティティウス＝ボーデの法則の値も表に添えてみた。ティティウス＝ボーデの法則とは、ティティウスが発見したものを18〜19世紀を生きたボーデが紹介した法則である。

■10■これは<<０^4＋０^3×２^n>>という簡単な数式に、地球を１とした惑星対応の整数をｎに代入するだけで現在の観測値の近似値が出てくるというものだ。この法則は経験則から発見されたと言われているが、恐らく思考錯誤の中で何らかの霊感が働いたものだろう｡これもまた地球が基本の１となっている｡

■11■なおコペルニクスは言うまでもなく、それまで教会の権威の元で不動の世界観であった地球中心の世界観「天動説」をひっくり返す、太陽中心の「地動説」を発表した科学者である。このコペルニクスの「地動説」が若きケプラーを非常に興奮させ天文学の道へ進ませ、コペルニクス的転換を生みだした。

■12■現代ではその科学的世界観すらもが、かつての「天動説」に相当する不動不変の世界観として、人間の精神構造を硬直させている力現状がある。私たちが今後さらに進み得る方向性は、天動説も地動説も否定せず、囚われもせずにその双方のあわいを超えて行く新しい｢天動−地動説｣なのではなかろうか。

■13■ヨハネス・ケプラーその人の生涯は、病弱と貧困と戦争の中で休みなき苦難の連続だった。彼は天然痘で妻子を失い､老母の魔女嫌疑のために奔走し､最後は未払いの俸給請願に赴き、雪中の路上で急死した。一説には餓死であったとも言う。客観的に見れば幸福とはほど遠い辛く凄惨な生涯かもしれない。

■14■だがそんな状況下でも継続して研究し続けた彼に対しては、深い尊敬と感謝の気持ちを禁じ得ない。誰が何と言おうといかに見ようと、それでもヨハネス・ケプラーは人間として、地球人として、恍惚と至福に満ちた悔いのない一生だったに違いない。最も少ない、しかし最も豊かな生き方であったのだ。


(※)画像<2><3>はwikipediaより、<4>は「Getty Images」より借用、加工。

(※)なおここではプラトン立体の面点変換である<内接球-外接球>の関係を取り上げているが、中接球半径を１とした３接球の関係<内接球：中接球：外接球>の半径比率を参考までに記しておく。興味のある人はご自分でその実際の値とのずれを確認してみてほしい。

正８面体の内接球　：正８面体の中接球　：正８面体の外接球　＝0.8165：１：1.4142
正20面体の内接球 ：正20面体の中接球 ：正20面体の外接球　＝0.9342：１：1.1756
正12面体の内接球 ：正12面体の中接球 ：正12面体の外接球　＝0.8507：１：1.0705
正４面体の内接球　：正４面体の中接球　：正４面体の外接球　＝0.5774：１：1.7321
正６面体の内接球　：正６面体の中接球　：正６面体の外接球　＝0.7071：１：1,2247