Ｃ-000　数と形とプラトン立体

■１■いわゆる理系でないのもあろうけれど、小学校から大学までの教育課程の中で、プラトン立体というものと出会った記憶がない。友人の超常的体験に巻き込まれて初めて立体幾何的発想を知った。数の不思議さや形の美しさに夢中になり、自ら多面体を作り始めたのはずっと後になってからのことだった。

■２■だからそのような世界観を万人の共通概念と思い込み、ひとりよがりに「プラトン立体の美しさは私たちの精神構造の反映である」とか「プラトン立体万華鏡を介して世界を見直してみよう」などと口にする前に、まず「何それ？」というピュアな質問に答えるところから始めなくてはならないと考える。

■３■プラトン立体とは５つの正多面体のことだ。堅苦しい言い回しである幾何学的定義だと「その表面を囲む全ての面が同じ形の正多角形で、各頂点への辺と面のつながり方も全く同じになっている３次元図形」となる。この凸多面体は５種類のみだが、他に星型正多面体という凹多面体も４種類の存在する。

　　　

■４■正３角形４枚からなるのが正４面体だ。８枚からは正８面体、20枚からは正20面体ができている。そして正方形６枚からなるのが正６面体、正５角形12枚からなるのが正12面体である。正６面体と正８面体、正12面体と正20面体は面点変換が可能な双対立体である。正４面体は自分自身と双対関係にある。

■５■対称性が高いプラトン立体だけが、外接球・中接球・内接球の３つの接球を持っている。図で示した紀元前2000年頃にスコットランドで作られた石玉の形状にも見られるように、このプラトン立体はギリシアの哲学者プラトンが自ら発見したものではない。彼より百数十年前のピュタゴラスも知っていた。

■６■その流れを汲むピュタゴラス学派の「火は正４面体、空気は正８面体、水は正20面体、土は正６面体の微生物から成り、創造者は宇宙全体を正12面体として考えた」などという自然哲学を、プラトン自身が総体的に取り上げたので、後世の人がそれに敬意を表してプラトン立体と呼ぶようになったらしい。

　　　

■７■プラトンがアテネ郊外に創設したアカデミアの入り口には「幾何学を知らざる者、この門をくぐるべからず」と書いてあったという。昔それを知った時、どんなものでも権威に対しては根拠のない反発を感じていた私は、若気の至りで「へーん、何偉そうなこと言ってやがるんだい」と反発を覚えていた。

■８■この類の不遜な性分は今だに変わらないが、プラトン立体の美しさを知るにつけ、「幾何学を知らざる者」ではなく「幾何学を好まざる者」くらいにまけてほしいと望むほどにはトーンダウンしていった記憶がある。もっとも今となってはどの道、その門を実際にくぐることはできないのではあるけれど。

■９■上手く説明することはできないが、この数と形の組み合わせからプラトン立体の上に立ち上がる世界の秩序を考えるようになり、私は最近ようやくおずおずと「プラトン立体の美しさは私たちの精神構造の反映である」と主張し、「プラトン立体を介して世界を見直してみよう」と口にするようになった。

■10■異なるジャンル間にある同じ数の呼応には、重要な意味が隠れているという確信があるように、異なるスケールの間に見る形の相似にも世界構造の秘密が存在するという直観がある。そのような呼応を厳密に証明するのではなく、気楽に楽しみながらプラトン立体その他の立体の上に見て行きたいものだ。