普通の万華鏡（kaleidoscope）は３枚の鏡を筒状に囲んだ３角柱の形をしている。そしてその底にできた正３角形を覗き込むと、色紙などの断片が反射して様々な美しい幾何学パターンを形作っているのが見える。この中心の正３角形は２次元における最も単純な多角形だが、１つ次元を上げて考えてみよう。３次元における最もコンパクトな多面体は正４面体だ。これを立体万華鏡に見立てて４次元から覗き込んだとしたら、一体どのようなものが見えるのだろう。肉眼では見えないさらなる美しい世界をこの正４面体の万華鏡（tetrahedron-kaleidoscope）を介して見るということは、人間が本来持っているある種のイマジネーションを喚起する必要があるだろう。さてではこの最もコンパクトでシンプルな多面体を様々な角度から覗き込むことによって、そこに立ち上がってくる諸々の情報を共に見ていこう。

　それを自らの内にある記憶と同型対応させることによって、世界の見方をいかに拡大・変容して行くか行けるかは、個々人の豊かな独自性の問題であろう。誰一人同じ人生を歩んではいないように、また誰一人全く同じＤＮＡを持たないように、全ての人が異なるキャラクターとパーソナリティと記憶と可能性を持っている。「初めて想起する記憶」という表現と「既視感のある斬新な発想」という表現とは、受け止める側の認識の違いに過ぎず全くの同値である。他者と全く同じ視座と視野を持つためには肉体ごと重ならなくてはならないが、この３次元空間ではそれは不可能だ。どんな辛い経験を持っていても、どんなハンディキャップを持っていても、それゆえに他者と違う世界の見方を持っているのだから、想起する記憶もまたすべて少しずつ違うだろう。人間として共通の精神構造からくる共通の意識をベースにすれば、不要な者はない。意味のない人生はない。１人１人が全てこの世界を豊かにする、多重多次元における多面体のめくるめく１面であり、かけがえのない存在なのだ。