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　さて山道を下って国道に戻り、大分空港への道をカーナビで検索したら２時間以上かかるという表示が出た。それではゆっくりしていたら６時４５分の離陸に間に合わない。何かの間違いだと思いつつ、とにかく急いで別府方面に向かって車を発進させた。平行して走っている大分自動車道は大分空港までつながっているので、この県道をずっと行けばどこかでこの高速道路に乗れるだろうと思いつつ車を走らせた。しかし恐るべし地方の高速道路事情。大分空港へ向かうための日出ジャンクション、そして速水インターチェンジとこの国道とは直接つながってはいなかったのである。

　かなり焦りながらカーナビに従って道なりに行くと、日出ジャンクションの手前でぐるりと山の間をＵターンして明礬温泉を通る国道５００号線につながっているだけだ。地図ではその手前で海側に下り折れて速水インターまで辿り着いて日出バイパスに乗るかとも思ったが、カーナビはこのまま国道５００号で別府湾まで突き抜けた後、日向街道を湾岸沿いにひた走り、大分空港道路の終点から空港まで行くルート以外は示してくれない。

　運転する純子さんは少しでも早くと考えて、明礬温泉前を下って県道１１号線に乗り換えてた。そのまま別府インターチェンジの入り口に辿り着き、そこから高速に乗って空港へ向かおうと考えたのである。窓の外にひろがる夕刻の別府湾を見る余裕もないまま、どうにか辿り着いた別府ＩＣから高速道路に乗ったところで悲劇は勃発した。

　大分空港と大分市方面とは全く逆の方向なのに、それを知らぬまま純子さんは大分多方面に車を侵入させたのである。高速道路は逆走もＵターンもできない。時間はこのままでもすでにぎりぎりであろうと思われるのに、車を取って返すためにはこのまま大分のインターチェンジまで走って一度下に降り、すぐさま逆方向に乗って大分空港まで爆走し続けなくてはならないのである。

　車の中は無言となった。宵闇は落ちてあたりは暗くなる一方である。別府から湯布院までの距離ほどを往復するという余計な時間をひたすら走って、ようやく間違いの出発点まで辿り着いたのが６時直前である。そこからさらに走ってようやく高速に乗りたくても乗れずに一般道上で泣き別れした日出ジャンクションに戻りついた。今度は間違わないように慎重に速水方面に侵入し、速見インターチェンジから日出バイパスを通って大分空港道路へと道なり一直線である。

　うまくいかない時は悪いことが重なるものである。レンタカーのカーナビ情報が古いバージョンだからだろう、新しい地図では速水からつながっている日出バイパスが示されておらず、道のないところを車が走っている表示がずっと出ていた。さっきから純子さんがカーナビが古いと叫んでいたのはこのことかと分かった。

　出発時間に間に合わなければ４人分のチケット代はパーである。カーナビ上では道なき道を走りぬけ、フロントグラス上ではトロい車を追い抜き続けて激走し、片側一車線なので壁や路肩が間近に迫ってスピード感が激増する空港道路もひたすら走り続けた。制限速度７０kmの道なのだが、恐る恐る速度計を覗いてみると１３０kmあたりで針が暴れている。時間が高速のまま緩やかに流れていく。

　６時２０分。ようやくレンタカーのガソリンをスタンドで満タンにすると、レンタカー会社に飛び込んだ。情報が古いカーナビに文句を言う暇もあらばこそ、レンタカー会社の人にその車のままで空港に横付けしてもらった。国内線搭乗手続きをするが速いか、持ち物検査の通路も空港職員に急がされて通り抜け、一番端にあるゲートから飛行機に乗り込むまでは小走り・中走りのままであった。

　尚子さんと久女さんにはスリルに溢れつつも難儀この上ないクライマックスであっただろう。まだ未搭乗の客がいるということを示すべく私が先駆けし、まだアドレナリン出っ放しの純子さんはしんがりを勤めてやはり走っている。駆け込むようにどうにか乗り込んだ時には、出発予定時刻を過ぎていた。われわれが乗り込んだＡＮＡの便は、ほかの便の遅れと相まって（多分われわれの駆け込みのせいもあると思われるが）定刻を過ぎての出発とあいなった。

　それにしてもよく乗れたものである。私だけであったなら高速で間違って大分方面に乗ってしまった時点で諦め、暴走の危険に身を晒すよりは命が大事だとばかりに早々に宿の心配をしていただろう。純子さんの天然のボケかましと地獄のような底力の両方を思い知らされた気がする。しかし人生上では余計な労苦や心配がないに越したことはない。やはり計画はしっかりしながら余裕を持って過ごしたいと主張したいところだが、どうしても塚原温泉に立ち寄りたいという私の希望がなかったら、湯布院インターチェンジから空港までは確かに１時間足らずで到達できたのであろうから、強い口調では言えないのである。

　温泉人生、実にいろいろなことがあるものだ。これからも襲いかかろうとしている思いもかけない出来事たちよ、私は逃げも隠れもするつもりはない。さあ、いつでもかかって来なさい。…あ、でもやっぱりあえて波乱万丈する必要はないかなあ。

■画像キャプション
右上：今回再び同じアングルから別府明礬大橋を眺めるとは思ってもみなかった。駆け足の旅程復習である。
左上：激走する車の窓外の闇の中には海地獄で見た色様々な蓮の花が…見えはしなかったがふとそんな気が。
右下：左に見下ろし右に眺めた別府の町の大きさと、大分空港が遠いことを思い知らされた２時間であった。
左下：連脈もなく思い出された、あまがみ＋ねこキックする岡本屋のクロ。ねこまんがの菊１号に似ている。

人生丸ごと湯治日記（０９２） 20051021-4