＜海賊版ダンボール多面体ハウスの意義＞　■トーラスＭＥＭＯより■

ダンボールに型紙で線を引き、切り取って、折りたたむ。接合部分はガムテープで。

（１）名古屋ドームを３日間借り切ってイベントをするというプランが、去年の夏前からずっと企画されて動いていたことは知っていた。しかし直前になるまで地元名古屋の人も含めて、その開催日時や内容の情報が行き渡っていなかったようなので、実は部外者の私（トーラス）も心配していたのだ。なぜならそのイベント会場のどこかあまり目立たないところで、ダンボールを切り抜き、貼り合わせて多面体ハウスを作ろうと目論んでいたからである。

（２）その主旨と名目は環境に優しくと主張し、また自然保護を詠いながら、大地や鳥や獣やクジラ・イルカ類を保護し大切にするほどには、街中で実際に生きているホームレスの人たちを大切にしていない人がいることに、やんわり意義を唱えようというものでもあった。簡単に切り合わせて作れるダンボール多面体ハウスは、バックミンスター・フラーのコンセプトにも少し近いものがあるだろう。

（３）何より町の景観を乱し、また余り目を向けたくないダンボールで作った、ハウスと呼ぶには余りにも脆弱な居住空間群が、それがたとえ高速道路の下や公園の一角であろうとも、プラトン立体やアルキメデス立体やフラードーム様のものであったとしたら、もう少し注目を集めるのではないだろうか。

形になるとどこかから子供たちが次々にやって来る。すぐに次のダンボールハウスに移行。

（４）もちろんこれは真剣に全力で彼らのことを考えたというよりは、そのコンセプト自体をパフォーマンスするという脆弱な考え方によっている。しかしオフィシャルにちゃんと許可を与えられて、きちんとディスプレイするよりも、場所の一角を不法占拠しているなどの理由で、追い立てられ撤去されかねないというスタンスの方が、より合っていると私は妄想していた。

（５）しかし実際は、ドームの外は寒風が吹きすさび、また余りにも見てくれるも何もそこに人がいないので、軟弱にも外部での実行を断念することにした。寒さに異常に弱い私の決断は、吹きすさぶ木枯らしの風速よりも速かった。ドームの内部を探索すべく見てみると、スペースがありすぎて、かえって出店数の少なさが浮き彫りになっていた。

（６）そこで私はこのドームイベントを盛り上げるためにも、このドームの中でダンボール多面体ハウスを製作しようと決意したのだった。だがしかしすでに出展や出店の締め切りは終わっているし、何よりその出展ブースの費用なぞあるはずがない。したがって当初の目的どおり、不許可承知のゲリラパフォーマンスで、イベントの主催者側と入場者側の双方に何か楽しみを与えられるたならと思ったのである。

まずは正２０面体、そしてベクトル平衡体。内部は体温で暑いほどだ。

（７）この企画に加担してくれるために、わざわざ遥か遠くから参加してくれた人たちには心から感謝したい。詳細や細かい思惑や主義主張はもちろん、多面体そのものの展開図や力学的・幾何学的説明も何もしないまま、素材のダンボールやカッターやガムテープ、そして労力を提供してくれ、しかもそれを本当に楽しんでくれた方々が、私には明るい未来への道しるべにも思えた。

（８）なにより実行委員で、本当はこのような不法行為を阻止すべき立場のたかしっち氏や小枝氏、出店しているコスモスファームの山岸さんたちや、１３の月の暦の出展グループや、その他の人たちも大目に見てくれるだけでなく、影に日向に様々なサポートをしてくれた。３日間の入場料を出したのは、この人たちへのせめてもの良心の証である。

（９）またダンボールを堂々と搬入口正面から入れてくれた人たちや、作り始めた時にそこではなく子供の広場という場所でお願いしますと言ってくれた係の人たちにも、心からお礼を言いたい。そして一緒にダンボールとガムテープで多面体を作ってくれた友人たちに加えて、わらわらと集まって興味深げに見入っていた幼児たちや、中に入って遊んでくれた子供たちにも多くの温かいものをいただいた。

着ぐるみにして会場を練り歩く。行く先々で記念撮影。子供たちはなぜか入りたがる。

（１０）しかし最後の後片付けの段になって、全てのものを撤収時に持ち帰ることという、このイベントのコンセプトの呪縛にあって立ち往生してしまった。しかし残り時間もないまま正面入り口の人たちに状況の説明と説得をして、一人では持ちきれぬ撤収したダンボールのたばをタクシーに積んで持ち帰る時、受付のボランティアの人たちが乗り場まで運搬を手伝ってくれ、またタクシーの運転手も快くそのいっぱいのダンボールを自分の車に積んでくれた。

（１１）それらも含めて、ひとりよがりの王国のひとりよがりの企画と実行に直接・間接に関与してくれた全ての人たちと世界に感謝している次第である。このドームイベント自体の実行委員は無罪放免となるらしいが、また何らかのイベントをすべく実行委員会そのものは存続していくらしい。そして多面体海賊はまたぬくぬくとその時を待つのである。

れっつとらみか点々記４−０５（２００２０１１８−２０）

------------------------------------------------------