れっつとらしえ北上記(7−16)20041014-3

 <一の坊の鹿のぞきの湯と丸子の湯>

 作並温泉の中でもう1つ目を付けていた温泉宿「湯づくしの宿一の坊」が鷹泉閣から徒歩で2〜3分のところにあることが分かったので、そちらも続けて立ち寄り入浴することにした。一の坊の玄関を入るとロビーにはいろいろと艶やかな飾り付けがしてあったがそちらには目もくれず、フロントで日帰り入浴の手続きを済ます。料金は浴衣付きで1300円だが、さらにここのタオルを記念にと100円で購入した。ここのシステムは少し面白い。立ち寄り客用の鍵をもらって専用通路から2階に上がると、男女別のロッカールームがあり、そこのロッカーを開けると浴衣と帯が入っている。そこに荷物を置き浴衣に着替えてから温泉施設に向かうのだ。

 ここの温泉施設までの道のりが長く入り組んでいるのだが、木の渡り廊下や階段などが美しいので楽しいのである。内風呂大浴場の「丸子の湯」の他に、露天風呂の「鹿のぞきの湯」と「広瀬川源流露天風呂」があり、外来入浴者にも午前10時から午後10時までと非常にゆったり開かれている。ただ惜しむらくはここの2つの温泉風呂は時間によって男女交代制なのだ。広くていくつもの露天風呂があるらしい広瀬川源流露天風呂は、午後1時半から8時までが女性タイムなので今回は残念ながら入ることが叶わなかった。

 それでも寝湯や座湯もある鹿のぞきの湯につかり、木の枕を頭に当てて寝湯を楽しんでみた。こちらは目の前にある源泉小屋の湯と別の源泉との混合湯を大きな木の樋を通して湯船に流し込んで掛け流しにしている。湯質は単純泉/低張性弱アルカリ性高温泉で源泉温度は54.1度Cだ。お湯はあたりの木々の緑を映しこんでいるからか、透明なのにわずかに緑がかっている。

 帰路に着く前に内湯の丸子の湯にも入っることにした。広い湯船を3つに区切るように太い丸太の湯枕が渡してあるので、そこに頭を乗せて体を伸ばしてみる。じっくりじわじわと染み入ってくるこの湯の泉質はナトリウム・カルシウム−硫酸塩・塩化物泉で、源泉温度は57.8度C、pHは8.2だ。しかしながら今日もまた私の温泉用快楽袋は一杯になってしまい、これ以上の入浴は苦痛に変わる直前だとの自覚があった。貪り止まぬを持って温泉餓鬼とこれ申すなり。温泉巡りの疲れを温泉で取るというのは、気の利いたパラドクスなどではなく、ただ愚か者の為さんとする痴れ事である。脱衣所に上がってふと横を見ると電動マッサージ機があった。吸い寄せられるようにこれに体を預けてステッチを入れると、体は揉み解されていくけれど、意識も眠りとの界面を行きつ戻りつ漂っている。いかんいかん、さあまずは仙台に帰らねば。

 この宿から出ている作並駅行きのバスは50分後までないし、仙台市営の路線バスも1時間近くしなければバス停までやってこないことがわかった。送迎バスで7〜8分ほどの距離だから徒歩でもさほどはかからないだろうと考え、美しい名取川と平行に走る国道48号線を作並駅まで歩いてみることにした。道のあちこちで道路工事のために手旗信号で一車線交互通行をしているけれど、それでも自然の中をマイペースで歩くことは心地よい運動だった。

 作並駅から電車に乗りこみ深々シートに座ると、なにやら今回の温泉巡りについての達成感のようなものが湧き上がってきた。しかしまだまだ東北はおろか宮城県だけでも素晴らしい温泉がたくさんある。必ずや今後また幾度も訪れるに違いないだろう。仙台の夜の町を徘徊しながらそう思った。午後9時半ちょっと前に深夜高速バスに乗り込むと、さっそく名古屋のおばちゃんたちの会話が車内を飛び交っていた。そして何かこの独特の言い回しとイントネーションまでも懐かしく感じるようになった自分に気がついた。さあ名古屋に帰るのだ。

 その夜のバスの中では、私はすでに新たなる東北の温泉旅行をしている夢を見た。鍋の粥が煮えぬほどの時間ではないけれど、今この時すらもあの旅行の合間に見ている夢かもしれないのだ。寝ても覚めても温泉旅行。何とも幸せな夢…いや現実ではないか。

【画像キャプション】
右上:崖の麓にある鹿のぞきの湯の源泉。ここの寝湯でぼーっとしているゆとりをいつも心の中に。
中左:正面から見上げた湯づくしの宿「一の坊」の玄関。半月もすれば周囲の山々は紅葉に染まる。
右下:内湯の丸子の湯は独特の落ち着きがある。これからは時間たっぷり余裕の湯治生活もしたい。

れっつとらしえ北上記7−16(20041014−3)

)ちなみにこの日は新月で部分日食があったが、2001年6月に第1回のれっつとらしえを星の郷からスタートした時も確か新月で皆既日食があったと記憶している。長い時間をかけて一巡りしたれっつとらしえの旅の終わりである。

-----------------------------------------------------