＜共同湯「滝の湯」＞

　いつも何冊ものハードカバーの新書が入った重いバックパックを背中にしょいつつ移動する甲田氏と共に、温泉神社へと続く坂道を登ってこちらも有名な共同湯「滝の湯」に入ることにした。実は甲田氏には、この滝の湯を江戸時代からずっと守り続けてきた隣の「ゆさや旅館」の「うなぎ湯」にぜひ入ってほしかったのだが、あいにくと立ち寄り入浴は１２時〜１５時なので叶わなかったのだ。入り口から少し戻ったところにひっそりたたずむ券売機に１５０円を投入し、滝の湯入浴券をゲットして再び正面入り口に向かおうとして、道の端にはめ込まれている鉄格子の上に白黒ブチの猫が横たわっているのに気がついた。

　病気か車に撥ねられでもしたのかと思いつつ近づいてみると、その鉄格子の下には温泉のパイプが何本も通っており、猫は気持ちよさそうに眠っているのだった。近づいて触っても逃げ出したりはしない。ゆっくり目を開けて、何か用？という顔をするとまた目を閉じる。しかとかよおい、喉や耳の後ろを撫でると気持ちよさそうに寝返りを打った。何のことはない、温泉の熱と蒸気成分を味わいつつ寝ている湯治猫だった。ひょいと目を上げるとほっそりした三毛猫が未知のむこうをしゃなりしゃなりと歩いていく。後で坂の上にもおっとりした猫を見かけたが、猫のいる温泉地は個人的にはたまらなく好きである。ゆっくり寝ていろよとブチ猫に言ってから、滝の湯に入った。

　乳白色の見るからに強力そうな湯が、３本の木の樋から総檜作りの湯小屋に注がれている。その樋のうちの１本は体を洗うために入り口付近まで伸びており、１本は広くて少し浅めの浴槽に注ぎ込んでいる。そして残る１本は奥の深い浴槽に注ぎ込んでいて打たせ湯ともなっているのだ。さすがに人気がある湯場だからだろうか、平日の午前中にもかかわらず数人の男性がコンスタントに長湯をしている。奥の深い浴槽はぬる目なので、そのまま眠ったような感じでかなり長い間でも入っていられる。また手前の広い浴槽で体が温まり体に染み込んだら、ちょっと横の板の間の上に横たわって休み、また湯につかるという湯悦の快楽を繰り返すことができる。

　２つの源泉を１つにして混ぜ合わされたお湯の泉質は「酸性−含硫黄−ナトリウム・アルミニウム・カルシウム・鉄（�U）−硫酸塩泉（硫化水素泉）／低張性酸性高温泉」ととても長い名前で、それだけでも何か有り難いような気がしてしまうではないか。泉温は４６．２度Ｃ。開湯１０００年の霊泉に年中無休で７：３０〜２２：００までわずか１５０円で入れるのである。これだけでもここ鳴子温泉郷の奥深さがわかるというものだ。ここの裏手には温泉神社へと続く階段の上り口があり、そこには木の太筒を通して滝の湯へ注ぎ込む源泉場がある。甲田氏はこのうっすら青白い湯につかったまま、何やら魂が湯面を漂っているかのように湯と一体化している様子である。確かにいつまでもそこに居続けたいような心地よさの湯なのである。

　外に出るとまだブチ猫は同じところで気持ちよさそうに横たわっていた。

【画像キャプション】
右上１：正面から見た滝の湯の入り口。この左裏が温泉神社、右隣がゆさや旅館。手前は急な坂道。
右上２：顔の真ん中から右が黒、左が白の鬼面猫も湯治中？赤い首輪つきなので近所の飼い猫かな。
左下１：滝の湯の名前通り高い位置から源泉が掛け落とされている。横になれる板場がありがたい。
左下２：奥のぬるめで深い湯船に長時間つかっていい感じの甲田氏。決して狐狸妖怪の類ではない。

れっつとらしえ北上記７−０８（２００４１０１３−３）

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