恋する者は壁に書く 　　19840527

恋する者は壁に書く
夢見るように抱きあい
眠り目覚めた公園の壁に
永遠に変わらぬ愛を誓いて

時がたち熱が冷め
離れ離れに生きたとしても
壁は残り誓いは残る

旅行く人は壁に書く
胸に染み入る風を追い
背もたれ憩う公園の壁に
今ここにある生の標しに

そこを立ち流れ去り
葉陰の色を忘れたとしても
壁は残り標しは残る

いたずら坊主は壁に書く
喜び悲しみおかしさを
汚れくすんだ公園の壁に
文字にならない落書きとして

学んで恋して成長し
遠い都の学生になっても
壁は残り落書きは残る

幾多の風雨にさらされて
薄れ滲んだメッセージたち
つたのからまる公園の壁に
それでも消え去らず残っている

昨日に今日が重なるように
新たな文字が重ねられていく
公園の磨り減ったレンガの壁に

恋する者は壁に書く
旅行く人は壁に書く
いたずら坊主は壁に書く
樹の生い茂る公園の壁に

壁は眠らない夢見ない
壁は愛さない旅しない
壁は遊ばない忘れない

壁は壁として立ち尽くす
人間達の戯れを閃きを
ひとときの真実を嘆きを夢を
たた受け止めて立ち尽くす

壁よ壁よ壁よ壁よ
人間は美しからずや？
時は世界は美しからずや？