１１２：恩寵のカノンの中で 19901227,30
(363) 猫の後ろ姿。この毛の文様と色は優性だと図書館で今日読んだ。 おまえがこのように生れて来たのはおまえのせいではない。おまえは私だ。 その心元ない首筋の辺り。猫は猫として精一杯生きるしかあるまい。 おまえは私だ。さて私よ、では人間は人間として精一杯生きるとは？ 夜中の３時。時計の音と、蛍光灯の振動音と、都会の夜の音。年の瀬。(19901227)

(364) 父母末生の時、私は？（創作の為の覚書） (19901230)

あの笑顔はどこに行ったのか？
あの少女はどこに行ったのか？
あの時の光はどこに行ったのか？
あの時私はどこにいたのか？
彼女は死んでどこに行ったのか？
私は死んでどこに行くのか？
もし父と母が出会わなかったら
私は今の私ではなかったのか？

　父母末生の時、私は？…その問いは神を見つける為の問いだ。BIG BANG 以前の宇宙は？と相似形の問だと思う。人間ユニットと宇宙ユニットという。他にもそれぞれのユニットは多数あり、それら多数は上位世界に存在している。

　その時私は、別の宇宙のちっぽけな星のかけらであり、山奥の湧き水の中に生じた泡の一つであり、太平洋の一つの波頭であり、樹齢四千年の小枝にとまる小鳥のくちばしであり、朝もやであり、タ闇を裂くこうもりであり、ほうき星の尾であり、古びたパイプから出る煙であり、小川の中の渦であり、台風の雨粒であり、月のクレーターであった。

(365) 私はすべてを愛せるだろうか？その問を発した時、既にすべてを愛している事を知れ。私と私と私と私との、黄金のカノンの中で、恩寵のカノンの中で…。