《１》高速道路と国道１５３号線

　満月の翌日。サイババを敬愛する、博識なインド通のアサリちゃんが運転する赤い軽自動車は、雨に濡れた新緑が眩しい中央高速道路をひた走っていた。私たちを乗せた車は、この日の午前中に上九一色村で逮捕された、オウム真理教の教祖・麻原彰晃が東京に護送されたルートを逆行して長野方面にに向かっているのだ。
　同乗者はしっかり者のアサリちゃんのお母さんと、これまた先日２年間のインド滞在から戻ってきたヒロミちゃん。彼女は助手席でひとり新緑の山々を眺めつつ、記憶の中のインド時間を追体験しているようだった。現在、遺跡発掘のバイトをしながら、シュタイナーと宮沢賢治の教育理念をもった学校を設立する、教員養成コースに入るかどうか思案中らしい。

　諏訪サービスエリアで一休みした後、再び長野の北安曇郡に向かおうとした私たちは、長野自動車道を行かなくてはならないのに、道を間違えてそのまま中央自動車道の南下ルートを取ってしまった。しかたがないのでいったん天竜川沿いの辰野インターで高速を降りて地上を走ることにした。
　午前中の麻原彰晃逮捕劇のせいだとは思わないが、天候は乱れに乱れ、晴れたかと思えば豪雨。そして稲光のあとにはコンデンスド・ミルクのような濃霧、さらにまた晴れ間の後で滝のような豪雨｡あまり急いでも事故を起こしかねないので､とりあえず国道153号線をゆっくり北上して塩尻まで行く事にした。

　途中にＪＲ中央本線の小野という駅があった。ただそれが私の姓と同じだというだけなのだが、何を見てもシンクロニシティと解する癖がまた発動したようだ。頭の中でカチッとスウィッチが入り、私は国道153号線の153という数について考え始めていた。
　新訳聖書のヨハネ福音書の21章に『テベリアの海辺で、死後蘇ったイエスの言うままにシモン・ペテロが網を引き上げると、それは153匹の大きな魚で一杯になっていた。』という記述がある。ルート153の看板を指して私が「イエスの弟子たちが捕らえた魚の数だねえ。」と言うと、みんな聖書には興味がないのか、ふーんという好意的な返事が返ってきただけだった。しかたがないので、私は数字については頭の中だけで考える事にした。

　　　　　シモン・ペテロは船に上がって、網を陸地に引き上げた。それは１５３匹の大きな魚でいっぱいであった｡
　　　　　それほど多かったけれども、網は破れなかった｡ 　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　（新約聖書21章11節)

　153は一見月並みな数のように見えるが、実はかなりユニークな特徴を持っている。例えば153は17の３角数だ。電卓で実際に確かめて見ればすぐ分かるが、１から17までの数をすべて足した和が153となる（１）。また17という数との関係で見ると、153は３×３×17である（２）。さらに、153は１から５までの階乗の和でもある（３）。（ある数の階乗とは、１からその数までのすべての整数を掛け合わせた積の事）

（１）153＝１+２+３+４+５+６+７+８+９+10+11+12+13+14+15+16+17
（２）153＝３^２×17
（３）153＝１！＋２！＋３！＋４！＋５！
　　　＝１＋(１×２)＋(１×２×３)＋(１×２×３×４)＋(１×２×３×４×５) ＝１＋２＋６＋24＋120

　ついでに言えば、153の３桁の数１,５,３のそれぞれの３乗の和は、これまた153となる（４）。このように各桁の数の３乗の和に等しい数は、１を除いてあと３つある。すなわち370と371と407だ。

（４） １^３＋５^３＋３^３＝１＋125＋27＝153
　　　３^３＋７^３＋０^３＝27＋343＋０＝370
　　　３^３＋７^３＋１^３＝27＋343＋１＝341
　　　４^３＋０^３＋７^３＝64＋０＋343＝407

付け加えるに、海水の特性インピーダンスは153×l04kg/m^２(＝1.53×l06kg/m^２）である。火星の軌道長半径は<1.52368>天文単位で､1.53に近似している。ところで火星と言えば、地球を１とした時の火星の赤道直径比は0.53だが、この1.53と1.00と0.53とは関係があるのだろうか？天文単位とは地球と太陽の間の距離を１とおいたものだから、この１を界面に反転が起こさせたら一体･･････。
　そんな事を考えていると、土砂降りの雨の中、すぐ目の前の山上で稲光が光った。その方向を見つめたままでいると、みどり湖温泉という看板が見えた。北安曇郡に行く途中でどこかの温泉に入っていこうと計画していた私たちは、即座にそこに行く事に決定した。

(さて明日は少し本編を離れ、別の原稿「153のアンソロジー」を見てみることにしよう。）

11(スペクトル)の月15日／ＫＩＮ23　　青い惑星の夜／Ｇ暦５月16日　or 19950516