Ｈさんは現在小笠原で、気が向いたら自前の小型船を駆って海で魚を釣ったり、観光客のガイドをしたりしながら、悠々自適に暮らしている。彼は小笠原の緑色の砂や小笠原メノウや流木などの素材を用いて、イルカや壷などのオブジェを作っている創作家でもある。作品数がたまったら、いずれ東京で個展を開こうと考えているそうだ。

　今回同じ船便で来島したドサーズライフのメンバーの中に、女性文筆家のバショーマツさんがいた。彼女は前回の来島の時、Ｈさんを取材してファンになったという。そのバショーマツさんが私に、一緒に広瀬さんのところに泊まらないかと言ってきた。彼女はＨさんに気に入られて、いつでも泊まりにおいでと言われているのだが、女ひとりで泊まるのはやはり少し気まずいらしく、ドサーズライフ関係者として私も同宿すれば安心だという事らしい。まあ私は男の数に入っていないという事なのだけれど。
　アクティブ・ホームレスを始めてから間もない私は、こんな感じでホイホイと宿が自動的に決まっていっていいのだろうかと思いつつも、バショーマツさんの本の端っこにイルカのパラパラマンガを描いた事もあり、泊めてもらえるならどこでもありがたいという気持ちでＯＫした。

　ところがＨさんの家に入り私があいさつをするや否や、Ｈさんは私の人生態度の甘さや、常識のなさや気遣いの足りなさを強く非難し始めた。前触れもないままあまりにもコテンパンにやり込められたので、私は誰か別の者が叱られているような妙な感じだった。「金も十分に持たず、泊まる宿も決めずに、なんとかなるだろうなんて気持ちで島に来るとは、一体何を考えているのだ。」確かにそう言われてみればその通りのような気もする。　そこで私はアクティブ・ホームレスの考え方をなんとか説明しようとも思ったが、言い訳じみた言質にとられかねないので、口を閉じたままじっと話を聞いていた。

　一段落したところで、とりあえずバショーマツさんを誘って夜の港に散歩にでかけた。港の青灯台が冷たく感じられた。「こんな事になっちゃってごめんね」と謝りながら、彼女も一体何がどうしたのかよく分からないままのようだ。まあ確かにどこの馬の骨かもしれない男が、自分のお気に入りの女の子と夜中に訪れれば、不快に感じるのは道理かもしれない。私にも多々、自覚できない非があるのだろう。潮の香を含む夜風に吹かれながら波の音を聞いているうちに、まあこういう事もあるさと思うと気が楽になり、Ｈさん宅に戻った。

　ドアを開けると、広瀬さんは自室から出てきて、感情を爆発させた原因は自分の過去の記憶中のにもあったのに、つい言い過ぎたと素直に謝ってくれた。そして好きなだけ泊まっていってくれ、何でも気がねなく使ってくれていいと言ってくれた。そして子供の頃の話をしてくれた後、明日は３人で自分の船で海に出て大いに楽しもうと言った。

13(宇宙)の月２日／ＫＩＮ２２１　　赤い宇宙の龍／Ｇ暦６月28日 or 19940628