#045　スピン１／２の自己双貫体

■世界には「見えるもの」と「見えないもの」と「未だ見えざるもの」とがあるという括りの中での話だけれど、今からそう遠からぬうちに誰でも未だ見えないものが見えるようになるに違いないのは時代の必然だろう。それを早く来いと待ち焦がれている者もいれば、そんなものは金輪際ありえないと断言する堅物もいるけれど、私は見えるものをまだ見尽くしてはいないので、見えるものをもっと良く見て記憶しておきたいものだと常々思う。

■相手の顔をちゃんと見れば今病んでいるのか健康なのか、楽しいのか苦しいのか、希望に満ちているのか不安なのかの機微が見て取れるというのに、やれオーラを見るだの、霊視して過去からの宿命を鑑みるだの、不安定な自我を確立しろだのと、わざわざこめかみに血管を浮き上がらせながら念力で目の前のスプーンを持ち上げようとする前に、ひょいと手で摘み上げれば済むという事実を正視しなくてはならないだろう。飛ぶ前に足元を見よ、だ。

■世界全体のうねるような反転のための蠕動運動にも目を配りつつ、未だ恋の1つも成就していない美少女の恥じらい含む謙虚なまなざし一つからさえも目が離せない。このような小花ひとつに目もくれずして、何がアセンションであろうか。何が全て光の中に入ると口にできるのであろうか。見えるものをそれとして正確に見れぬ者に、未だ見えぬものが見えるというのであれば、それは病いか妄想ではなかろうか。おのれ自身をまずは正しく見よう。

　　　　

■安易に言葉にする物事は、口にする直前からすでに崩壊し始めていく。どれだけ耐えられるか、どれだけおのれの内にて言葉にならぬものを言葉に変換せずに抱き保ち続けられるか。他の人はどうか知る由もないけれど、私は「見る」ために生まれてきた。子供の頃から、それだけは忘れたことがない。そして見ることを見る時、私は自分自身に眺められていた自分を知りなおす。私は自らとスピン１／２の対称関係にある自己双貫体なのである。

2009.04.07 Tuesday